第6話母親
翌朝、久しぶりに亮は朝から起き出していた。玄関を出て、隣の様子を伺う。
(まだ、寝てんのかな?二人共)
振り返り、表に出て、隣の実家に行く
呼び鈴を押して家人が出て来るのを待つ事もなく、入って上がり込む。
『お邪魔しま〜す』
そんな事を言っていると、奥から母親が出て来た。
『あら、亮、おなかすいたの?』
『いや、大丈夫。親父は?』
『さあ、その辺に居ない?』
『居ないみたいだけど・・・』
『じゃあ散歩にでも行ったんでしょ、いつもふら〜と居なくなるから』
『またかよ』
母親は気にとめる事もなく、
『お父さんに何か用なの?』
『いや、まだ怒ってるかな?と思って』
『・・・昨日は1日グチグチ言ってたけど、今朝は怒ってなかったわよ』
『そう』
『お父さんの事より、アンタも、しっかりしなさいよ』
『ああ、分かってるよ』
『女の子にもてないわよ、そんなんじゃ』
『・・・・・』
『井上さんの妹さん、さおりさんだっけ?どうなった?』
(このババァ、また間違えてやがる!)
『昨日隣りに移るの、手伝いに来てたよ』
『あらそう』
『今日も来るって、言ってた』
『アンタに会いに?』
『そんな訳ねえだろ、なんでそうなるんだよ、まだ2日しか経ってないし』
『・・・そんな事あるわけないか・・・、片付けの手伝いかしら、隣りの』
『じゃねえの、俺の部屋もまだ片付いてないし』
『ここのアンタの部屋、そのままにしておいていいから、あっちの部屋、綺麗にしておきな』
『ああ』
『いつ、さゆりちゃんが来ても、恥ずかしくないように』
『!』
『聞いてる?』
『ヘイヘイ、俺に部屋に来る訳も無いし、ましてや入るなんてまずないし』
『まあ、そうよね』
『じゃ、また、親父居そうな時に来るわ』
『あいよ』
(とりあえず、アパートの自室に戻るか)
ふと脇の自分の元居た部屋を見る。
(まだ、向こうに持ってっとく物、あったっけかな?)
そう思い、部屋に入り物色していると程なく、
『おはよう、亮!』
と、窓の外から声がする。
振り向くと、さゆりが立っていた。
『・・・・・・・』
『待ってた?、私の事』
『・・・何言ってんの?それより何やってんの、そこで?』
『亮、自分の部屋にいないから、こっちに来てるかなと思って』
『・・・・・』
『どっちに居てもいいや、会えたし』
『お姉さんのうちに来たんだろ』
『お姉ちゃん達も居ないし』
『なんか悪い?』
『奥にお袋が居るんだよ』
『あら、じゃ、ご挨拶しなきゃ』
『なんで?もう二階に住んでねえじゃん、お姉さん達』
『だって将来のお義母様じゃない』
『だからなんでそうなる?』
『冗談よ』
『冗談かい』
そう言うと、さゆりは玄関の方に行き、チャイムを押しつつ、ドアを開けて
『おかあさん、おはようございます、さゆりです』
と、声をあげた。
あ然としていると奥から母親が顔を出し、
『あら、さゆりちゃんじゃないの。おはよう、今、亮、居ないのよ』
『知ってます、お部屋に居ませんでしたから、アパートの方にも』
(おい、ここに居るよ)
『上がる?さゆりちゃん?』
『はい!お邪魔します!』
(もう勝手にしてくれ)
必要な物を持って、自分のアパートの部屋に戻ろうとすると、奥からさゆりと母親の笑い声が聞こえてくる。
『ウチは男の子二人だから、娘が出来てうれしい』
とか、
『私が娘になります』
とか、さゆりが話している声がここまで聞こえる。
(やれやれ)
そっと玄関を出る亮。
通りの向こうから、信二と慶子が歩いて来るのが見えた。
散歩にでも行っていた様で
『おはようございます』
と、こちらから声を掛けた。
『おう、おはよう!』
『おはようございます、亮さん』
『昨日もごちそうになっちゃって、ありがとうございました』
『おう、食いっぱぐれたら、いつでも言ってこいよ』
『そうよ、いらっしゃい。ところでさゆり来た?』
『・・・・ああ、来ました。』
『おお来たか、部屋の前で待ってるのかな?アイツ』
『・・・・・・・うちに居ます。・・・』
『あら、亮さんのお部屋に上がらせてもらってるの?』
『じゃなくて、実家の方に』
『あちらの亮さんのお部屋?』
『いえ、奥で』
『?』
『うちのお袋と喋ってます』
顔を見合わす二人
『ガハハ、そうか、やるなアイツ』
『笑い事じゃ・・・・』
『ご迷惑?』
『そんな事・・・ないですけど・・・』
『じゃあ、いいのかな?このままで』
『お袋も、話し相手が出来て喜んでるかもしれません。でも妹さん、何か用事があったんじゃないですか?』
『ええ、引っ越しの時に、私の洋服の中に気になったのが有ったから、もう一度見せて欲しいって』
『ああ、そうだったんですか、じゃあ呼びますね』
そう言うと、亮はチャイムを押した。
ドアを開けると母親とさゆりがこっちを見ている。
『なんだい、亮、また来たの?』
『おかえりなさい、亮くん』
『お姉さん達帰って来たよ、さゆりさん』
『!』
中の二人が顔を見合わせる。
亮は気付かなかったが、後ろの二人も。
『じゃあ、お母さん、行きますね』
『はい、またいつでもいらっしゃい』
『ありがとうございます、じゃ』
『またね』
さゆりがこちらに来る。
亮の前を通り過ぎると、チラリと一瞥して外の二人に
『お待たせ!』
そう叫ぶと、ぴょんと跳ねて通りへ出た。
『二人共、居ないんだから!何処に行ってたの?』
『おう、ご近所の探索を兼ねて、散歩してきた!』
『へえ〜そうなんだ!何か面白い物、有った?』
『さゆりの好きな和菓子屋さんとかあったわよ』
『本当!、行ってみたい!』
『まだ開いてないわよ』
『あ、そうか、この時間じゃ、まだだね』
『それより、大家さんのお宅で何してたんだ?』
『へへへへへ、お母さんと話ししてた!』
『お母さん?』
『そう、お母さん、亮の』
『ハハハ、そうか。』
『そう、よかったわね。朝ごはん食べて来たの?』
『うん、食べてきた。ねえ早く部屋に入ろう』
『おう』
クルリと振り返るさゆり。
『じゃ、亮、後でね』
『・・・・おう』
3人は部屋へ入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます