第3話引っ越し
その日の午後、亮が自室でTVを見ていると、階段を降りる足音が聞こえてきた。
別段、気に留めずにTVを見ていると、
『何してんの?』
不意に窓の外から声を掛けられた。
!
『TV見てんのか』
さゆりが覗きこんで中の様子を伺ってくる。
そのまま呆気にとられていると、さゆりの後ろから、
『失礼が過ぎるわよ、さゆり!』
と、声がする。
『意外ときれいだね、部屋ん中』
『・・・・・はあ、どうも』
『さゆり!』
『まあいいや、今から夕飯の買い物に行くんだけど・・・』
『・・・・・はあ、行ってらっしゃいませ』
『アンタ、好き嫌いある?』
『・・・・・』
『ねえ?』
『・・・なんで?』
『夕飯に招待したいんだけど』
『・・・・・・・』
『聞こえてる?』
『・・・・なんで?』
『言ってる、意味わかる?』
『・・・よくわかんない』
さゆりがムッとした顔をして続きを言いかけた時、後ろから
『亮さん、もし良かったら、ご親睦も兼ねてお夕飯にご招待したいんですけど』
『・・・はあ』
『お母様には、私から伝えますので、是非』
『・・・・いや、お袋には自分で言っときますけどいいんですか?』
『はい』
『引っ越してきたばかりの所にお邪魔して』
『主人も喜ぶと思います。』
『はあ』
『さゆりも、ねっ!』
『おう、来いや』
『・・・・・・』
『新婚の家庭で変な事すんなよ、兄貴いるけど』
(コイツは、またそんな事言うか!)
『大した物は、ご用意できませんが是非』
『じゃあ、お邪魔しようかな』
『うん』
と、笑顔のさゆり
『6時頃で大丈夫ですか?、その頃には主人も帰って来ているので』
『はい』
『じゃあ6時に二階に上がって来て下さいね』
『はい』
『では、後ほど・・・』
『行ってらっしゃい』
姉妹はそう言うと、振り返り、買い物に向かった。
少し歩き出して離れると
『おねえちゃん』
『ん?なあに?』
『アイツ、姉ちゃんと喋ってる時、ずっと胸見てたぞ!』
『フフっ、そう?』
『コンチクショウめ!』
あの妹は、なんてことを、半分本当だけど。
日も暮れて6時になると、亮は2階へと上がって行った。
呼び鈴を押す。
『は〜い』
返事がする。
(お姉さんの声かな?)
ガチャリとドアの先には、さゆりが立っていた。
『こんばんわ』
と、言うと
『よく来たな、まあ汚いとこだが、入って』
(俺が、入居前に掃除したんだが・・・)
『はい、お邪魔します。』
居間に行くと、美味しそうな薫りと共に熊が、その料理に貪りついていた。
『おう、来たか!亮君』
『はい、お邪魔します』
『先に頂いちゃってるけど、まあそこ座って!』
信二さんが隣の席に勧めてくれる。
『ありがとうございます』
『今、慶子も来るから、さあ食べて!』
『・・・ケイコ?』
『お姉ちゃん』
さゆりが答える。
慶子さんが最後に盛り合わせをテーブルに持ってきて、席に着いた。
『さあ、これで全部かな?、みんな揃ったから食べようか?』
『アニキもう、食べてんじゃん。』
『ガハハ、まあ腹減っちまって』
『大変ですよね、引っ越しって』
『大した物じゃないけど、お口に合うかな?』
『いえ、お袋の料理より、よっぽど立派で。』
『まあ!』
『いただきます!』
と、4人で食事を始めた。
すると、信二さんが
『亮くん、呑める?』
不意に、尋ねてきた。
『ええ、呑めますけど、まだ18なんで大っぴらには・・・・』
『そうかそうか。じゃあちょっとだけ、つき合ってくれ、引っ越し祝いって事で』
『はあ』
『うん、舐めるだけでも。慶子は?』
『私も頂こうかな?』
『おう!さゆりは?』
『17』
『おう、そうか、じゃあ乾杯だけな!』
食事も進み、7時を過ぎた頃、ガツガツ食べ、ガブガブ呑んでいた信二さんは、すっかり、出来上がっていた。亮も。
最も進められて呑まされたわけでもなく、信二さんが、あまりにも美味そうに呑むので、勝手に注いで、呑んでいたのである。
信二さんは、一人っ子らしく、亮が弟のように感じてくれたらしく、亮もまた久しぶりに騒いでいた。
『なんだ、こいつら』
さゆりがちょっと引いていた。
慶子さんは、程よく頬を染めて、男二人を温かい眼差しで見ている。
話しも盛り上がり、8時近くになると、居間の入り口に、顔真っ赤にしたオッサンが立っていた。
『こんばんわ、どちら様で』
一番最初に気付いたさゆりが、そのオッサンに問い掛ける。
その視線の先には、親父が立っていた。
『アレ?親父?どうしたの?』
信二さんも振り返る。
『あっ!大家さん!こんばんわ〜!』
『ご近所さんから、お宅の二階がうるさいと言われてきてみれば、チャイム押しても出て来んし、申し訳ないが鍵開けて入って来た。』
『すみません。大家さん。』
『そうしたら、亮!お前も何やってんだ!』
『すみません、引っ越しのお祝いって事で形だけ付き合ってもらったんですけど・・・』
『また、呑んだな亮!』
『うるせえ、クソジジイ!』
親父が湯気を揚げている。
『そうだそうだ、ジジイ!』
悪のりした信二さんの言葉、さらに亮が
『帰れ』
親父がキレた。
『出でけ!』
静まり返る。
『酔ってご近所さんにご迷惑をかけるような輩は出てけ!』
3人は平然と固まっていたが、さゆりはやれやれという顔で溜め息をついていた。
こうして今日引っ越してきた、井上ご夫妻は1日でまた、引っ越す事になるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます