第2話姉と義兄
亮は家に帰り遅い昼食を取っていると、
二階から、話し声が聞こえる。
さっきのコンビニの行き帰りでの、さゆりとのやり取りを思い出し、箸の手を止めていると、母親が
『見た感じ、いい人たちでしょ』
話し掛けてくる。
『・・・・分かんない。』
『ん?』
『妹さんにしか会ってないから・・・』
再び箸を進めながら答える。
『・・・・アンタさっき、どこ行ってたのよ?』
『コンビニ』
『何しに?』
『飲み物買いに』
『・・・・・アンタ帰って来た時、何も持ってなかったじゃないの』
『・・・・・・・・』
(よく見てんな、この人は)
『お二階さんに差し入れを、と思って』
『ふ〜ん』
『・・・・・』
『アンタが』
『・・・・・』
ニヤニヤして
『全くこの子は、そういう事は・・・』
『何だよ!』
『新婚さんだからって』
『!、また同じ事を言う!・・・・女の人は・・・』
『また?』
『さっきも言われた』
『誰に?』
『井上さんの妹さん』
『いつ?』
『・・・・コンビニに買いに行く時』
『もう誘ったの?』
『!ちげえよ!玄関出た所で上から降りてきたんだよ!』
『ふ〜ん』
『何だよ』
『別に・・・』
『・・・・・』
『男の子だからねえ』
『!』
『まあ頑張んな』
『!』
居間を去る母親
『クソババァ・・・』
程なくして二階が静かになり、玄関のチャイムが鳴る。
『は〜い!』
母親が扉を開けに行くと、
ずんぐりむっくりの30代のオッサンが立っていた。
『大家さん、あらかた荷物の運び入れが終わりましたんで』
『あらそう、早かったわね』
『ええ、まだそんなに家具も揃えていないんで、順を追って少しづつ。』
『・・・そうね、新婚さんなら、とりあえず布団さえあればねえ』
『ぶははははっ、まっ、何かとご迷惑おかけする事もあるかと思いますが、何卒宜しくおねがいします。』
『ええ、こちらこそ宜しくね』
『とりあえずトラック返しに行ってくるので、二階の家内と義妹は片付けで残ってますんで』
『あらそう、ご苦労さまね、気を付けていってらっしゃい』
『はい、お願いします。そういえばさっきお茶の差し入れありがとうございました。』
『・・・・・ああ息子が買ってきた分ね?』
『ああ、亮君でしたっけ?』
『ええ』
『さゆりが買い物に行く時、そこで亮がコンビニへ私達にお茶を買いに行く所で、会ったと』
『ええ』
『ホント、ごちそうさまでした。では、行ってきます』
『はい、気をつけてね』
『失礼します』
トラックが出ていく音がする。
居間で休んでいる亮の所に来た母親が、
『今のが、井上さんのご主人よ』
『ああ』
『熊みたいよね?』
『・・・まあ、良さそうな人だよね』
『32って言ったかな?』
『ああそうなんだ』
『・・・たしか32』
『・・・奥さんも旦那さんと同じくらいなの?』
『・・・・そこ?気になる?』
『クソババァ・・・』
母親はニヤニヤしながら、
『高校生の妹さんがいるのよ、21って言ってたかな、確か?』
『へえ〜』
『くれぐれも、変な事しないで頂戴よ、アンタ』
『クックックッ』
亮は赤い顔をして怒りを堪えている。
『まあ、妹さんならねえ、フリーか分からないけど』
『・・・・』
『17歳って言ったから、2年生か3年生じゃない?』
『・・・・』
『さおりさんって、今、義兄さんが言ってたわよ』
『さゆりだよ』
『ん?』
『さおりじゃなくて、さゆりだよ、3年生って言ってた』
!
『・・・・』
『アンタ、もう聞いたんだ?』
『向こうが名乗ったんだよ!俺が聞いたわけじゃない!』
『いつの間に』
『さっき、一緒にコンビニ行ったって言ったろ!』
『一緒に?』
『・・・・』
『一緒に?』
『・・・・』
『手なんか繋いじゃったりして?』
『・・・繋ぐか!』
『・・・・・』
『何だよ?』
『一緒に買いに行ったとは聞いてないねえ、さっきは』
『えっ?』
『階段から降りてきた、さおりさんに会ったとしか』
『さゆりだって』
『・・・・・・』
フッ、鼻で笑う母
『あっ!』
ニヤける母
『言いませんでしたっけ?一緒に買いに行ったって』
『玄関出たら、階段降りてきたさゆりさんに会ったとしか』
『・・・・・・』
『アンタもやるときゃ、やるんだねえ』
『・・・・・・』
『まあ頑張んな』
『・・・・・・』
ピンポーンとまた、不意にチャイムが鳴る。
『は〜い』
と、母親がまた玄関に向かう。
開けた扉の先にさゆりが立っていた。
『あら、若奥様!』
亮が母親の声の先の女性をよく見てみると、さゆりとよく似た、よくよく見ると、さゆりと違い髪を後ろで束ねた女性が立っていた。
『大家さん、あらかた片付けもおわりまして、』
『あら、そう』
『これつまらないものですが』
『ああ、わざわざいいのに』
『いえ、これからも長くお世話になるかもしれないので、宜しくお願いします』
『こちらこそお願いね』
居間から玄関の様子を眺めていた亮は、外見こそよく似ているが、明らかに大人の女性がそこにはいた。
その女性が頭を上げた時、居間にいる亮に気づき、
『あっ!亮さん、ですよね?』
母親が振り返る。いいよ、アンタは。
『・・・・』
『お茶、ありがとうございました。』
亮が返事をしようとしたら、
『手伝いでもして来なって、言ったらお茶持ってこうと』
『はい』
『さゆりちゃんにそこで会ったって』
『ええ、さゆりもお茶買いに行こうとしたら、亮にお会いしたって』
『一緒にコンビニ行こうって誘われたって』
『あらやだ、うちのバカ息子ったら、初対面なのにねえ』
『いえ、その時2回目だって話すの』
『えっ』
『荷物運んでる時に、亮さんのお部屋から声かけられたって』
『ああ、あの子の部屋から階段の様子が見えるからねえ』
『ええ』
『気持ち悪いかったかもしれないわね、よく言っとくわ、あの子に』
『いいえ、そんな事は』
『そお〜』
『妹も名前聞かれたけど、名乗ってきたから教えたって、まんざらでもなかったみたいです。』
『えっ』
『同い年だって聞いて、興味ある感じでした』
『ほう』
『まあ、さゆりはここに住むわけではないんですけど、住まいは近くなので、ちょくちょく来る事はあるかもしれません』
『うん』
『亮さん』
不意に呼ばれた
『妹の事も併せて、今後とも宜しくお願いしますね』
『・・・・はい』
その時、亮は大人の女性に見惚れていた。
『アンタ、変な考えんじゃないよ!』
『(クソババァ)』
『でもあのご旦那さんがいればねえ』
『ふ、ふ、ふ。では、これで』
『はい、息子の事も宜しくね』
(何言ってんだ、この母親は)
会釈して出ていく彼女を見つめていると、
『オイ』
と、母親に肘で小突かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます