時は流れて

@lowren

第1話出会い

スマホもフィーチャーホンも無かった、昭和から平成に移り変わる頃の、ちょっと昔の恋の話し・・・。


五月晴れの日曜日の昼下り、1人の男が、自宅で布団を被って寝ている。

その部屋の窓から、トラックがバックで入って来る音が聞こえる。

袋小路の男の家の前で、トラックが止まりドアの開く音と共に、1人の女の子が降りてくる。

 『へえ〜ココなんだ。』

トラックの中の姉夫婦に、声をかける。

 『そう、そこの階段上がった2階だ。』

義理の兄が答える。

 『下が大家さん?』

 『そうよ、まずご挨拶しないと。』

姉がトラックから降りる体勢で答える。

 『じゃあ、チャイム押すよ?』

 『ええ、お願い。』

女の子が階段の脇にある、呼び鈴を押す。

 チャイムが鳴り、中から家人が返事をして玄関のドアが開く。

 『は〜い、・・・井上さん?よね?』

中から女の子を見た、女性は目をパチクリしている。

 『はい、今日越してきました、井上信二の義理の妹です。』

 『ああ、井上さんの奥さんの妹さんね。  あら、お姉さんとよく似てるわね。』

 『こんにちは、大家さん。今日からお世話になります。』

妹の肩越しに、姉が声をかける。

 『先日は、ありがとうございました。今日から宜しくお願いします。』

トラックの運転席から降りてきた信二も応じる。

 『あら、こんにちは。こちらこそよろしくね。』

 『はい』

3人が会釈をして答える。

 『今から荷物運ばせて頂きますので。』

 『どうぞ、どうぞ。お待ちしてました。

階段に気を付けてね。』

 『はい、では早速』

3人はトラックの荷台から下ろす準備を始める。

 それの様子を眺めていた母親は、

『あら3人だけ?大丈夫?』

『はい。たいして荷物の量も無いので。』

『そう。玄関鍵開けて、風通ししてありますから。』

『ありがとうございます。』

『何かあったら、声を掛けて。』

『はい』

女性は家の中に戻っていく。

『じゃあ、始めようか。』


3人は手分けして、荷物を運び入れて行く。階段を何度も昇り降りする足音に男が目を覚ます。

『朝っぱらからなんだよ、うるせえなあ。』

寝ぼけ眼で窓の外の階段を見上げる。

トントントンと、軽やかに若い足音がする。

『ん?』

その声に、女の子が気付く。

『こんにちは!』

咄嗟の挨拶に男がキョトンとしていると、

『あなた、大家さんの・・・息子さん、よね?』

『・・・・・・・・ああ。』

『今日から、お世話になる井上です。よろしくね。』

男は黙っている。

『聞こえてる?』

『ああ、・・・井上さん。』

『・・・・アンタ、いくつ?』

『・・・・18。』

『・・・・ふ〜ん。いい若いモンが真っ昼間から・・・。』

それだけ言うと、階段を昇って行ってしまった。

『・・・・なんだよ、アイツ』

ベッドで上半身を起こした亮は、頭を振って立ち上げた。

自分の部屋を出て、居間にいるであろう母親に声を掛ける。

『母さん!2階って?』

母親が答える。

『あら、アンタ起きたの?』

『階段の足音で目が覚めた。』

『あらそう。今日入ったご夫婦よ。井上さん。』

『ああ、この間言ってた新しい人。』

『そう。』

『今日からなんだ。』

『そうよ。言ってなかったっけ?』

『・・・いつからかは聞いてなかった。』

『・・・・』

母親はテレビの方を見ていて返事がない。

『・・・・夫婦って、・・・奥さん随分若いね。』

『・・・・・・ああ、あの子は奥さんの妹さん。』

『・・・・・ああ、そうなんだ。』

『アンタ、会ったの?』

『・・・足音で目が覚めて、外見たら声掛けてきた。』

『ふ〜ん』

『・・・・・・』

『・・・・・で?』

『・・・・・で?って、それだけだけど』

『・・・・・』

じっと亮を見つめる母。

『・・・・・なんだよ』

『・・・・・別に・・・。暇ならお手伝いしてあげてきな、荷物運ぶの。3人だけでやってるみたいだから』

『なんで俺が・・・』

『・・・・興味あんだろ?新しい人、女の子に。』

『・・・べ、別に。』

『・・・・』

視線をTVに戻した母を見て、亮は部屋に戻って行った。

『井上・・さん・・・』

亮は少し考えると、服に着替えて、表に出た。

玄関を出ると目の前に積み下ろしのトラックが停まっている。

亮は少し考えると、階段を上がらず、逆の方へ歩き出した。

ふと、2階の方から足音が聞こえたと振り返ると同時に、

『大家さん!・・・の息子!』

と、さっきの女の子に声を掛けられた。

『・・・はい。』

変な呼ばれ方をして亮は不服そうに返事をする。

『お出かけ?』

少し間をおいて、

『そこのコンビニまで。』

女の子は目を開いて

『丁度良かった、一緒に行っていい?』

『・・・構いませんけど・・・』

『じゃ行こ!』

階段を駆け下りてきた女の子は、亮の横に並んで歩く。

『・・・何買いに行くの?』

女の子が亮に問いかける。

隣を振り向いて黙っていると

『ああ、そういった物を・・・』

亮はなおも黙っていると

『いい若いもんが、真っ昼間から』

ボソッと言う。

少し考えた亮が女の子の言わんとしていう事に気付き

『飲み物です!』

女の子が振り向く

『じゃあ、一緒だ!』

前に振り直ると亮達はそのままコンビニに着いた。

中に入ると、

『何買うの?』

女の子が聞いてくる。 

『・・・い、井上さんに、喉渇いてるかな?と、思って差し入れを。』

また、目を見開く女の子

『お茶でいいですか?』

亮が尋ねる。

『うん。私とお姉ちゃんはお茶で。義兄さんはコーヒーかなあ。』

『冷たいの?温かいの?』

『みんな冷たいので大丈夫。っていうか、温かいのもう無いんじゃない、5月だし。』

『あ、本当だ、ねえや』

『季節感ないな~、ええ若いモンが』

また同じような事を言われた亮は続け様に、

『アンタいくつ?』

『18、さっき言いましたけど。』

ブスッと答える。

『あはっ!そうだけっけ?』

ケラっと笑顔で答える。

『高校生?』

『はい』

『3年?』

『・・・はい』

『ふ〜ん』

少し間が空いて、亮が

『い、井上さんは?』

『レディーにそれ聞く?』

『ぐっ!』

『一緒だよ!高3、まだ17だけど』

『・・・・・』

『よろしくね!大屋さん!』

『・・・・亮です。藤原亮』

『わたしはさゆり!井上さゆり!』

『・・・・・はい』

『わたしは一緒に住むわけじゃないけど』

『・・・・ああ、そうだよね』

『姉さん達は新婚さんだからね』

『・・・・・・』

『また、何か考えてた?』

『・・・・・・・いや、そんな事は、』

『あるんでしょ?』 

さゆりが言い終わる前にツッコむ。

黙って飲み物を買って店を出ると

『何か手伝える事があれば・・・』

亮が切り出す。

『そんなに荷物無いし、義兄さんパワフルだから、大丈夫じゃないかな?』

『・・・そう』

家に着き、じゃこれ、コンビニで買った飲み物をさゆりに差し渡す。

『ウン、ありがと!』

そう言って受け取ると、階段をまた軽やかに駆け上がって行った。

その後ろ姿を亮は見送り家に入った。


 

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