第119話 エスコート

「青くなったね。全体的に」


「折角だから、糸を染めてみたの」


「ユウコは青が好きなの?」


「うん。大好き」


「綺麗な青だね。メムにとって、青は幸運の色なんだよ。山の中で青い蝶を見つけると、幸先が良いっていうお告げなんだ」


  ぷぅ ぷぅ


 抱き上げられたコルの手の中から抜け出すと、そのあみぐるみは彼の肩へと飛び乗った。


「クマベエ、良かったな。前よりも綿が多めに入ってるんじゃない? 身体も一回り大きくなったような」


「全く同じには編めなかったんだよ」


「でもこれはクマベエだよ。分かる。中身は全然変わってない」


「人格が変わってしまわなくて、ホッとした」


 笑った侑子とコルの声が、控室の中に響き渡った。


「楽しそうね」


 ドアを開けて入ってきたのは、コルの母親だった。キノルは切れ長の瞳を細めながら、侑子の頭の先から爪先まで、ゆっくりと目を走らせる。


「ユウコ、すっごく綺麗よ!」


「ありがとうございます」


「一足先に言っていい?――――おめでとう!」


 再び礼をするために軽く腰を折ると、目の前に広がる純白が眩しかった。


「準備はバッチリね。私は呼びに来たのよ。そろそろ神殿に向かいましょう。向こうも準備万端よ。ユウキもね」


 頷いた侑子に、クマベエを肩に乗せたコルが手を差し出してくる。メムの正装を纏った少年は、少し背が伸びたようだ。


「あなたもカッコよくエスコートなさいね、コル」


「任せてよ」


 母親に向けて得意げに胸を張ったコルは、侑子の手を引いて出口へと足を向ける。


「私のいた世界では、こういう役目は新婦の父っていうのが定番なんですよ」


「ヒノクニでは誰でも良いのよ。仲良しの友達数人でつとめたりすることもあるわ。まぁ、メムの結婚式には、こういう場面はそもそもないけどね」


「そうなんですか」


「そうだよ。だから父さんもじいちゃんも、経験したことないんだ。この役をやったことのあるメムの男は、相当珍しいよ」


 誇らしげなコルの笑顔は、少年らしく瑞々しい。


「よろしくお願いします、コル」


 こんな風に彼に挨拶をするのは、二回目のことだと侑子は思った。前回はメムの里から王都へと向かう、旅の始まりの時だった。


「任せて。ちゃんとユウキのところまで、ユウコを導くよ」


 ぴぃ ぷぅ!


 凛々しい顔で微笑むメムの少年に手を引かれて、侑子は歩を進めていった。大好きな人の元へ。

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