針穴の手紙②

 砂と化した謎の男がもたらした紙束は、手紙だった。


男が最後に言い放った『読め』という言葉から、ラウトはすぐにそれが文書であることを察したのだが、それは針を使って文字の形に細かな穴を開けたものだったのだ。


 なぜそのような形で文書を作ったのか。

その理由は、読み始めてすぐに判明した。




***





この手紙を読む者へ


やられた。


ミウネ・ブンノウにやられた。


空彩党お抱えだった、マッドサイエンティストだ。

気をつけろ。


毒を注入された。

告げ口をしたら、身体が砂となって消滅する毒だ。

文字も書けない。ペンを持った瞬間、砂化だとよ。

だからこうして、紙に穴を開けて記すことにする。いい気味だ。ここまでの想像力はなかったらしい。


このままでなるものか。

どうせ何もしなくても、俺は死ぬ。

毒は一種類じゃない。

やつにとって俺は、用済みなのだ。


私はあの政争の後、空彩党の復権を目指して、あの男の元で働いていたのだ。


しかし、あいつは狂っている。


これ以上は危険だ。


国が滅びる。


ミウネはあの研究施設襲撃事件の生き残りだ。


あの場所で開発していた兵器を、現在でも諦めていない。


そのために王の神器を奪おうと画策し、タイラ・ミネコの行方を探している。


俺はタイラ・ミネコ捕縛のために、人を殺した。

宮司親子を焼き殺した犯人は、俺だ。


昨今頻発している天災は、全てミウネの研究が原因だ。


これ以上 “天膜” を破壊させるな。


ミウネは来訪者も狙っている。

スギタ・ツムグを守れ。奴に渡したら終わる。何もかも。


この後数ヶ月の間に、奴を止めろ。


止めなければ、とんでもないことになる。


今までの比ではない、大きな天災が起こる。


多くの国民が死ぬ。

広い国土が荒れ、絶望がこの国を覆い尽くすことになる。


止めてくれ、どうか、頼む。


ミウネの元には、まだやつを信奉しつづける者達が残っている。

気をつけろ。

多くが元空彩党員だ。

洗い出せ。

そして、ミウネの居場所を突き止めろ。



後悔している。

本当に、国のためになると信じていたんだ。



ツァマ・ダン

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