ノマから侑子へ

ユーコさん



 ご無沙汰しております。

息災でしょうか。


誰かに手紙を書くことなんて、普段滅多にございません。不慣れなので、可笑しな文章になってしまうかもしれませんが、ご容赦くださいね。


 今日はユーコさんに、昔の話を聞いていただこうと思い、筆を取りました。


 平空政争の頃の話です。


 ユウキさんから、私の家族があの政争で亡くなったとお聞きになったことがあったでしょう?


私は夫をあの政争下で亡くしたのです。

死因はあの争いで亡くなった民間人の多くと同じです。


ただ、巻き込まれたのです。


流れ弾に当たるようなものですよ。

夫の場合は圧死でしたが。


爆撃によって倒壊した建築物の、下敷きになったのです。


 私はあの時、怒りました。


私の大切な、たった一人の愛する家族を奪っていった、政争に対して。政争を起こした、愚かな政治家たちを呪いました。怒りの矛先は、迷うこと無く彼らへと向かったのです。


 今、ヒノクニはあの政争の頃と同じか、それ以上の混沌の中にいる気がします。


犠牲となる人も出ています。

けれど政争の頃と違うのは、人々の怒りと悲しみのやり場が迷走していること。

原因が不可解すぎて、皆が平等に怯えて、それ故に妙な団結力まで芽生えているのです。


 不思議でしょう?

私も渦中にありながら、人とは分からないものだと思います。


 けれどこれは、悪い流れではないと分かるのです。


 民草は逞しいものですよ。

 魔法よりも神秘的で、侮れない力は存在します。


 あの政争で見た悪夢を反面教師にして、私達は今の困難に抗っている。


魔法が使えなくても、案外困らないものなのです。


 ユーコさん、だから心配しすぎないでくださいな。


あなたは大切な私達の家族。

そんなあなたが、一人離れたところで私達が原因で悲しんでいたら……それは私達にとって、大きな悲しみです。


 ユーコさんの学校でのお話や、ご友人たちとの音楽の話、いつもユウキさんから聞くのを楽しみにしているんですよ。


私から楽しみを奪わないでくださいね。

ご自身の生活を、精一杯楽しんで下さい。



ノマ

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