思い出⑤
ステージに向かう直前。
侑子から届いた短いメッセージに目を走らせたユウキが、僅かに表情を曇らせたのをアミは見逃さなかった。
「ユーコちゃんから?」
「ああ」
よく分かったな、とは言わない。
アミは鋭いし、しっかり自覚があるほど侑子に関してのあれこれにユウキの表情筋は敏感だった。
「来れなくなっちゃったの?」
「いや、そうじゃない」
ユウキは首を振った。
「これから墓参りに行くらしい」
「墓?」
「二十年前に亡くなった、ユーコちゃんたちと同じ世界から来た夫婦の」
アミは無言で頷いた。彼もその夫婦についての話は知っている様子だった。
既に二人しか残っていない楽屋は、少しだけ空気が重たくなった。昼間にアオイと散々ふざけ合った場所とは違う部屋のようにユウキには感じられた。
「心配なんだ」
ついさっきこの場所で、侑子には笑っていて欲しいと声に出したばかりだった。襲撃事件の話や空彩党の研究施設の話をしていた時の侑子の表情を思い出す。
あんな顔をさせたくなかった。
「今日エイマンさんのとこに話を聞きに行くって聞いた時から、ちょっと心配ではあったけど」
「ラウト・ソノダね。彼は来訪者と親交が深かったらしいな。きっとユーコちゃんとツムグくんにとって有益な情報を沢山持っているよ。悲しませるだけじゃないだろう。大丈夫さ」
元気づけるように背中を軽く叩かれる。
アミが開けた楽屋のドアの上を、いつもより重たい足取りでユウキは通った。
ステージに背を向けて別の場所へ飛んでいきたいと思ったことなんて、初めてのことだ。
今すぐ侑子の隣に行きたかった。彼女の隣で、いつでもその手を握ってやれる位置にいたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます