思い出④

「チーちゃんはねぇ、本当によく笑う子だったわ。いつも前向きで、悲しい話は好きじゃないって言ってたっけ」


 いつの間にか話題はチエミとマサヒコの思い出話になっていた。


二人と交流があったのはリエも同じで、二人の結婚式で新郎新婦其々の証人を務めたのも、ラウトとリエの夫婦だったのだという。


「エイマンも二人の結婚式には一緒に出席したのよ。まだ小さかったから、あまり覚えていないかしら」


「かなり朧げに誰かの結婚式にいた記憶はありますよ。でもマサヒコさん達の式だったなんて知りませんでした」


 驚き顔のエイマンを目にするのは珍しい。今日は彼が初めて知る事実も沢山あるようだった。


「あなたはまだ五歳くらいだったもの。よく遊んでもらってたのよ。チーちゃん、幼稚園の先生を目指してたって言ってたわ。子供好きだったのよ」


「こちらへやってきた時、彼女は十九歳だったね」


「ええ。若かったわよね。とても笑顔が可愛くて、マサヒコさんはいつもデレデレしてて。面白かったわぁ」


 思い出話に花を咲かせる両親に、エイマンもどこか嬉しそうだった。


「こんな風に父さんと母さんがマサヒコさん達の話をしているのを、初めて見ました」


 エイマンのその言葉に、ラウトは視線を落とした。


「ああ。意識して話さないようにしていたわけではないんだ。ただ、楽しい思い出話として彼らの話をすることに、罪悪感があったのかも知れない」


 侑子と紡久に視線を移して、その柔らかな碧眼を細めながらラウトは続ける。


「いつもあんなに近くにいたのに、助けられなかった。結局何もしてやれなかった。むしろ状況を悪くして、あいつの仲間達全員を死なせてしまった。時間が経っても原因を突き止めることはおろか、国を整えることもできていないのだから」


 リエが空になったティーカップに新しい茶を満たしていった。その色は澄んだ赤で、立ち上る湯気は沸かしたてのようだった。


「今日こうやってマサヒコとチーちゃんの話をして笑えたのは、きっと君たちがいてくれたからです」


 紡久と侑子はお互いを見交わしてからラウトの方へ向き直った。「ありがとう」と頭を下げられて、慌てて二人とも頭を垂れた。


「ねえ、あなた今日は何もお仕事の約束はないんでしょ?」


 妻の問いかけにラウトが頷くと、リエが笑顔を浮かべて人差し指を上げながら提案をした。


「これから二人のお墓参りに行きましょうよ」

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