紡久②

 紡久が今いる国の名前は、ヒノクニといって、自分は並行世界からやってきた人間だそうだ。

そういう人は珍しいけれど、前代未聞ではないという。


 そしてこれから、紡久は自分同様並行世界からやってきた人と、対面することになるのだ。


 病室を訪ねてきたエイマンという外国人風の名の男は、まるで御伽噺のような説明を繰り返した。

 彼の隣にいたリリーという女も、時折補足するように言葉を紡いだが、奇抜な外見のせいで紡久の頭には殆ど内容が入ってこない。


 ただなんとなく相槌を繰り返している間に、彼はエイマンに連れられて何やら長い距離を移動し、大きな屋敷の門をくぐっていたのだった。



***



「本当にあの子、ユーコちゃんと同じ世界からやってきたんだよね?」


 一度退室したジロウが、エイマンを廊下の端まで引っ張って行きながら、小声で訊ねる。


「そうですよ。……まぁ、来たばかりの頃のユーコさんより、幾分落ち着きすぎてるというか。受け入れすぎているというか。そういうところはありますが。間違いないです。私は彼の魔力も、見ましたから」


「ああ。そうか。透明な魔力な。それが一番の目印か」


 エイマンの言葉に、腑に落ちたとジロウは頷いた。


「彼は何歳だって?」


「十五歳です」


「ユーコちゃんと同じくらいか。……並行世界からやってくる人っていうのは、子供ばかりなのか?」


「さあ……そういうわけではないと思いますけどね。父の友人はこちらにやってきた時には、成人していたそうですから。彼らの国での成人って、二十歳ですよ」


「ふうん。何歳でも突然勝手が分からない世界に放り込まれちゃ、たまったもんじゃないだろうけどな。子供なら尚更だろう」


 ジロウはふうと一つ息をつくと、エイマンに既に決定事項であるような調子で提案する。


「ここには既にユーコちゃんもいることだし。どうだろう。あの子もこの屋敷で、俺が面倒見るってのは」


 エイマンはふっと笑いながら頷いた。


「元よりそのつもりでした。リリーも彼を発見した神社関係者も、その方がいいだろうと。しかしただでさえ歳納のこの時期、手いっぱいではないでしょうか? そこだけ気がかりだったのです」


「そんな事気にするなよ。年末年始をここで過ごすのは、毎年大体同じ顔ぶれだ。家事も食事も、ほぼセルフサービスみたいなものだから。俺とノマさんも慣れてる。ユーコちゃんも、もはやお客様ではないしな」


 ジロウの言葉に、エイマンの笑みが慈愛を帯びたものに変わった。


「ユーコさんは、お客様ではないんですか?」


「そうだよ」


 エイマンが何を思ってそんな表情になったのか、ジロウは分かっていた。二カっと白い歯を出して、彼は頷いてみせる。


「ユーコちゃんは家族だ」

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