紡久③

 その子が俺を見る顔は、緊張しているようだった。


 二重瞼がぱっちりと開かれたまま、瞬きを忘れたように、此方をまっすぐ見つめてくる。長い髪は黒髪で、目の色も黒っぽい。

 その色だけで、彼女が俺と同じなんだと分かった。この場所ヒノクニに来てから、変な色をした人しか、見てこなかったから。


「はじめまして」


 怯えているのかな、とも取れる表情だった。しかし声に出されたその言葉は、思いのほか大きく、はっきりと聞こえた。


 迷いない動きでお辞儀をされて、ついこちらのほうが、慌ててその動作に倣う。


「どうも」


「五十嵐侑子です」


「杉田紡久です」


 しばらく沈黙が流れて、その間に彼女と共に部屋に入ってきた人物二人に、目を走らせた。


 どちらもやはり、不思議な髪色をしている。片方は灰色でもう片方は紫色。そして目の色も、滑稽なほどに派手だった。


 こんなにカラフルで統一感のない色ばかりの人々が住んでいる国が、地球上にあるのだろうか?


 肌の色も様々に混在しているのに、言葉は日本語。表記も日本語。

余計に頭が混乱してくる。


 そんな中、目の前の女の子だけが間違いなく自分と同質の存在であることが、すんなり理解できる。

身につけているのは着物だし、その色柄もやけにカラフルでおかしいのだが。


 彼女だけは同じだ。

仲間だと直感で分かった。


「学ラン」


 突然彼女が口にした単語に、拍子抜けする。


「制服を着ていたんですか? こちらにやって来た時」


「うん」


 彼女が口に出した単語に、思わず声が上ずった。学ラン。その単語を知っているのか。


 もう本当に間違いない。


この子は俺と同じ世界を知っているんだ。


「私もこっちに来た時、セーラー服でした。夏服だったけど」


「そうなんだ」


 ふっと笑い声が漏れて、女の子が笑顔になる。つられてこちらも、頬のあたりが脱力した。


「本当に同じ世界から来たんだ」


 そう言いながら顔が歪んだのでびっくりすると、彼女は涙を流したのだった。


 隣の背の高い男が、彼女の肩をそっと支えるように、手を添えているのが見えた。

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