第32話 紡久

 気づいたら、真っ白な部屋のベッドの上だった。独特なその空間の香りは、病室のようだと思わせる。


 清潔な寝具は寝心地が良くて、雲に触ることができたとしたら、こんな感触なんじゃないかと思う柔らかさである。


 繰り返される微睡みの中で、そこが現実であろうが夢の中であろうが、構わないと思った。


 手足を動かしてみると、自分の身体が確かに確認できた。なぜか素足だし、見慣れない白いパジャマのような服を身に着けてはいたけれど。


 そして左腕には、透明なアクリルを削り出した形のバングルが嵌っている。これも見覚えがない。手をすぼめても外すことが出来ない具合になっていて、どうやって取り付けたのか、考えが及ばなかった。


 次第に意識がはっきりしてきて、どうやらそこが、夢の世界ではなく現実であることを飲み込み始めた。


 そんな時だった。

腕に嵌った透明なバングルが薄く光り、何か鈴の音のような音を発し始めた。びっくりして思わず声を上げると、ピタリとその音が止んだ。そして間を開けずにして、その部屋のドアが開いたのだった。


 紡久つむぐがそこにドアがあったのだと知ったのは、その時だった。

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