開かれたもの⑦
ユウキのバンドメンバーの内、ジロウの屋敷に寝泊まりしているのは、アミだけだ。
ミユキとショウジ、レイはそれぞれ央里内の家族の待つ家へと帰っていく。
今日のステージは、夕方で終わった。こんなに早い時間に帰宅できるのは、リリーの出演分をカバーしていたここ最近では珍しい。
侑子は大抵夕食の時間を超えてライブハウスに留まることはないので、最近はユウキやアミより一足先に帰宅する日々だった。
今日は久しぶりに、三人並んで帰路を歩いている。
「……ユーコちゃん、緊張してるね?」
アミが笑った。
昼間は雪が舞っていたが、積もることはなかったらしい。足元の歩道が解けた雪に濡れたまま、街灯に照らされて艷やかに光っていた。
「初めて会う人だから……ううん。久しぶりに会うから、かな。同じ世界を知っている人と」
そういえば元いた世界の自分は、今よりも内気で人と会うことに対して、いつだって緊張しがちだった。
「本当は楽しみなはずなんだけど。ちょっとだけ怖い」
これから会うのは、内気で口下手な数ヶ月前の自分ではない。
同じ場所から来たというだけで、おそらく全く知らない赤の他人のはずなのに。なぜだかそんな他人を、侑子は過去の自分と重ね合わせてしまうのだった。
「大丈夫さ」
ユウキが言った。その声はいつものように優しく、侑子の耳に馴染むように響く。
「あれこれ考えている時ってのは、一番怖く感じるものだろう? だけど実際にその時になってしまえば、どうってことない。むしろ楽しいかもしれない。俺も君も、そんな経験つい最近もしたはずだ」
侑子の脳内に謝恩会の風景と噴水広場の風景が蘇った。
頷いた侑子は、歩幅を狭めないように意識して一歩一歩進んでいった。
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