開かれたもの⑤


 あ つ い


頭に浮かんだのはその感情だけで、次に把握したのは凶暴な光だった。


 目の前に広がる一面の火の海。


 その炎は彼が今までの人生の中で目の当たりにした炎の類――コンロの炎やキャンプファイヤーの炎とは全く異なる形状をしていて、視界いっぱいに広がる巨大な熱の固まりだった。


 焼かれる――声を出そうにも、あまりの熱さで息を吸うことも、吐くこともできなかった。


開口したまま喘いで、漠然と死を連想した。


 しかし意識を手放す前に、そこが炎に包まれた建物の内部であったのだと彼は気づく。


 建物の外側に投げ出されたからである。


 なぜ足を一歩も動かさないままに、自分が外の地面に叩きつけられているのか。全く分からない。


 焼きつける熱さから解放されたと分かったのと、擦りむいた腕と打ち付けた膝の痛みに呻いた自分の声が、本物だと把握しただけである。


 吸い込む空気は冷たくて、身体に取り込めば取り組むほど少しだけ五感がはっきりしてくる。


 激しく咳き込みつつ本能のままに荒い呼吸を繰り返しながら、彼は目の前に立ち上る巨大な火柱を見上げた。


其の中に僅かに誰かの腕が見えた気がして、やはりそれは崩れた木片だったのかもしれないと思う。



 彼の意識はそこでぷつりと途切れた。


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