針と糸⑪
幼馴染四人を見送った後、程なく侑子たちも帰路についた。
一昨日と同じように侑子はユウキが漕ぐ自転車の荷台に跨り、背中越しに頬をくすぐる風を感じていた。
「賑やかだったでしょ? あの四人」
「とっても楽しかったよ。ありがとうね、ユウキちゃん」
騒がしいけれど楽しく、居心地の良さを感じた一時を回想すると、侑子は自然と思い出すのだった。愛佳と遼、蓮の三人の従兄弟たちと過ごした時間を。
自然と言葉が口をついて出ていた。
「私、歳の近い従兄弟が三人いてね。とっても仲良いんだ。近くに住んでいたから、よく一緒にいたの。一昨日も従兄弟の家に行くつもりだった。出かける前に、制服を着替えようとして……」
皆心配しているだろう。侑子は想像して、すぐに後悔した。楽しい時間を過ごせて充実を感じていた心は、みるみる沈んでいく。
「ユーコちゃんが着ていた服は、制服だったんだね。向こうの世界の学生は、皆制服を着ているものなのかな」
前方からの質問に、侑子は顔を上げた。意図的に話題を逸してくれたのが分かったが、今はありがたかった。
「私服の学校もあるけど、制服が多いよ。そういえばユウキちゃんたちは、制服じゃないんだね」
四人のユウキの幼馴染たちは、みな服装はバラバラだった。街中で見かけるようなドレスや着物姿でもなかったが、四人の服装に統一された箇所は見当たらなかった。ユウキもTシャツにジーンズ姿の、昨日とほとんど変わりのない服装である。
「こっちじゃ制服を着る学校なんて、一つもないよ。皆自分の好きな服が着られないなんて、嫌がるだろうなあ。学生たちの反乱が起こるかもよ」
冗談なのかどうか定かではないが、本当かも知れない。侑子がそう察するほど、この世界の人々の服装は統一感もなければ、バリエーションが豊かで自由だ。そしてどんなに目立つ服装の人がいたとしても、誰もそれを異常だと感じていない様子なのだった。
「好きな服を着られなければ、魔力も上がらない。魔法も本来の力を発揮できない。服ってとても大事なものだろう」
「じゃあこの世界には制服は一つもないの?」
「そんなことない。警察や軍隊は制服だよ」
「なるほど。警察か。この国には軍隊もあるんだ」
日本語が普通に通じるし、喋り言葉も侑子には違和感がなかったので、まるで日本にいるような感覚もあったが、やはり別の国なのだと思った。
自転車が止まって、侑子たちの会話もそこで終わった。
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