歌声④

「ユーコちゃん……?」


 不安げな彼のその声に、侑子は顔を上げた。眼の前には沈痛な表情を浮かべる、ユウキが立っていた。


「ユウキちゃん……!」


 侑子は握りしめたハンカチで、ぐいと顔を拭くと、目を見開いてこう告げたのだった。


「凄かった! すごく、すごく良かった! ユウキちゃんの歌声、とっても良かったー!!」


 興奮しているのか、顔は赤く上気している。黒縁メガネは外し、ハンカチとは反対の手に握りしめられていた。侑子の焦げ茶色の瞳は、潤んできらきら輝いている。


 ユウキはその瞳を見て、彼女が悲しくて涙しているのではないと察した。


「あぁ……もっと気の利いた言葉が出てくればいいのになぁ。すごいとか良いとか、そんな感想しか言えないなんて」


 小声でそうつぶやいて、侑子はすぐにまたユウキを見つめてくる。


「ユウキちゃんの歌、とっても好きだよ。ありがとう。聴かせてくれて」


 今度は顔いっぱいの笑顔だった。


 ユウキは返すべき言葉を咄嗟に思いつけず、ただ目を瞠って、少女の笑顔を見つめ返していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る