歌声④
「ユーコちゃん……?」
不安げな彼のその声に、侑子は顔を上げた。眼の前には沈痛な表情を浮かべる、ユウキが立っていた。
「ユウキちゃん……!」
侑子は握りしめたハンカチで、ぐいと顔を拭くと、目を見開いてこう告げたのだった。
「凄かった! すごく、すごく良かった! ユウキちゃんの歌声、とっても良かったー!!」
興奮しているのか、顔は赤く上気している。黒縁メガネは外し、ハンカチとは反対の手に握りしめられていた。侑子の焦げ茶色の瞳は、潤んできらきら輝いている。
ユウキはその瞳を見て、彼女が悲しくて涙しているのではないと察した。
「あぁ……もっと気の利いた言葉が出てくればいいのになぁ。すごいとか良いとか、そんな感想しか言えないなんて」
小声でそうつぶやいて、侑子はすぐにまたユウキを見つめてくる。
「ユウキちゃんの歌、とっても好きだよ。ありがとう。聴かせてくれて」
今度は顔いっぱいの笑顔だった。
ユウキは返すべき言葉を咄嗟に思いつけず、ただ目を瞠って、少女の笑顔を見つめ返していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます