透明な魔力③

 全員が食卓に落ち着くと、引き続き自然と透証の話題になった。


「私は大体いつも、首からさげていますね。服装とそぐわない時や邪魔な時には、指にはめることもありますけど」


「俺はブレスレットに加工してる」


 ノマとユウキが見せてくれたそれぞれの透証は、ジロウの物と形状が異なっていた。


ユウキのものは、穴の大きさが五ミリもなさそうな細い管状で、黒や青の糸を編み込んだ細紐に通してある。

一方のノマの透証は、細いリング状で、金のネックレスチェーンで首から下げられていた。


 三人の透証に共通しているのは、無色透明であることだった。


「本当に形はバラバラなんですね」


「支給されるときは、ただの透明な四角の塊なんだよ。それを魔法で身に着けやすい形に変えるんだ」


「なくしてしまいがちな小さな子供は、親が代わりに持っていることもありますよ。大体皆魔法をコントロールできるようになったら、自分で身につけるようになります」


 ノマの説明が気になって、侑子は「それって何歳くらいなんですか?」と質問を挟む。

その回答が小学校入学したての年齢だったので、思わず「すごい」と、無意識のため息とともにつぶやいた。

魔法を使えない自分が、半人前以下のような気持ちになる。


「この世界では私、自分を証明するものも持っていない人間なんですね」


 スーツ姿の男に追われた記憶が蘇る。


この世界では平行世界の存在は一般的に信じられているようだが、明らかな異分子であることは間違いないだろう。


 なんとなく心許ない気持ちになってきたが、ジロウはああ、と何かを思いついたような脳天気な声を出した。


「そのことだけど、ユーコちゃん。そんなに深刻に考えなくて、いいと思う。ユウキから聞いたかもしれないけど、たまにいるんだな。ユーコちゃんのように、並行世界からやって来る人間が。そしてちゃんとこの国では、そういう人達を受け入れてる。透証だって発行してもらえるさ」


「そうなんですか?」


「ああ。かなり珍しいことには違いないが。今日そういうことに詳しい知り合いに会う予定がある。一緒に会ってみるか?」


 ジロウの言葉に、眼の前の帳が開かれたように、侑子の瞳に光がさした。


ぱっと表情を明るくした侑子を見て、隣に座るユウキが口を開く。


「そうか。今日はリリーが来るんだね」


「ああ。本番は夕方からだが、午前中に一度機材の確認をしたいらしい。エイマンくんも一緒だろう」


「俺も一緒に行く」


「ユウキさん、学校は?」


「もう必須科目の単位は取れてるんだ。今日は出欠取らない授業しかないし」


 咎めるようなノマの視線だったが、誤魔化すように微笑んでかわすと、ユウキは付け足した。


「テストも終わってる。余裕だったよ……知ってるでしょ」


「仕方ないな」


 ジロウは笑った。


「ユーコちゃんが心配か。そこはこのおじさんに任せてほしいところだけど。ユーコちゃんも、ユウキが一緒のほうが安心かな」


「だよね?」


 唐突に顔を至近距離で覗き込まれた侑子に、頷く他の選択肢はなかった。

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