第14話 透明な魔力

 ノマが整えてくれた寝具が大変柔らかく、陽の光を吸い込んだような、たまらなく良い香りだったからだろうか。


清潔なシーツの上に横たわり、程良い硬さの枕に顔を埋めると、侑子はあっという間に眠りの世界に意識を沈めていった。


 しかし深く沈みすぎたのだろう、夢の世界を彷徨うことはなく、次に気がついたときには、すっかり朝の光で明るくなっていた。


 どれくらい眠ったのだろうと、サイドテーブルの時計を確認すると、短針はまだ六と七の間にあった。


 こちらの世界とあちらの世界には、どうやら時差があるようだと、侑子は昨日の段階で感づいてはいた。

(侑子がこの世界への入り口を開いた時、元いた世界では午後六時だった。一方こちらの世界では、日が高くなりつつある時間、つまり朝だったのだ。)


幸い時差ボケすることなく、体内時計は正確に機能しているようだった。


 ベッドから降り、ガーゼ生地の寝間着から、ノマが準備してくれた服に着替えた。


丸襟から裾へ向かって、菫色のグラデーションが美しく広がる、ワンピースだった。シルエットが昨日風呂上がりに用意してくれていたものと似ていたので、これもノマが魔法で出してくれたのだろう。


 スリッパをはいて部屋から出ると、洗面所へ向かう。


静かな空間に、侑子のたてる足音だけが響いていた。


この広い屋敷を訪れる客は多いそうだが、今この建物内にいるのは、当主のジロウとユウキ、ノマの三人だけなのだそうだ。


 洗面を済ませると、侑子はなんとなくいつものように髪をお下げに整えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る