第22話 腹の立つ話

 同僚が腹の立つ話とやらを持って来た。



 会社の駅のすぐ先は列車の経路分岐点になっていて、そのすぐ先に踏み切りがある。

 ある夜、酔っぱらった大学生がトラックを盗み、この踏切に進入した時点でトラックを乗り捨てて逃げた。

 無茶苦茶な話である。

 折悪しく快速電車がブレーキが間に合わずにこれに衝突した。

 最悪なことに跳ね飛ばされたトラックはその先の満杯の駐車場に突っ込んだ。この結果、そこに駐車していた十数台の自動車がすべて破壊された。

 電車の持つパワーの大きさが分かるというものである。


 逃げ出した大学生はすぐに逮捕された。

 その賠償額は全部でなんと二億円。(現在の四億円程度)

 これでその大学生の人生は終わる。酒に酔って何とも馬鹿なことをしたものだ。



 次の日、留置場を訪れたその大学生の父親は、二億円をポンと払い大学生を引き取って帰った。



「うわ、腹立つ」思わず言った。こちとら安月給でこき使われている身だ。頑張って金を稼いでいる目の前で金をドブに捨てる光景を目にしたのだ。これを聞いて腹が立たないわけがない。

「でしょう?」同僚が相槌を打った。

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