第23話 タランチュラの恐怖

 行きつけのバーでタランチュラという酒が流行ったことがある。

 毒蜘蛛の名を持つこのお酒は、アルコール度数45%程度のテキーラにシトラスフレーバーがつけてある。青・オレンジ・ピンクの色バージョンがあり、青は旨いがピンク色のものは恐ろしく不味い。


 この酒の何が凄かったかと言うと、恐ろしく悪酔いすることだ。

 ショットグラス三杯でたいがいの人間が記憶を失う。

 俺は今までどんな酒でも悪酔いしたことがないと豪語する客が三杯目で撃沈してカウンターに突っ伏す。

 きっと何か恐ろしいことがあったのだろう、来るなり四杯立て続けに流し込む女性もいたがやはり悪酔いした。


 面白いので常連の間で祭りになった。

 タランチュラ祭りである。自分でも飲むが他人にも無理に飲ませる。バーの扉を開けると、中には轟沈されたお客が生ける屍となって累々と積み重なっている。

 この祭りはタランチュラが酒屋の在庫にも無くなることで終わりになった。


「あのお酒はひどかったねー」

「何か悪いもの入ってるんじゃないか」

 常連の皆で噂しあった。


 しばらく経って、タランチュラは輸入禁止となった。

 なんでも違法薬物が酒の中から検出されたという話である。


 さらに二年ほど経って再度輸入が再開されたが、さすがにもう祭りをやろうという者はいなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る