第20話 二人のスティーブ

 スティーブン・ジョブズとスティーブン・ウォズニアック。

 アップル社の創業者であるこの二人。一般人に有名なのはジョブズであり、技術者に人気のあるのがウォズニアックである。

 ガレージで組み立てられたパソコンであるアップルを売り込んだジョブズを天才的な起業者と見る向きも多いが、それは違う。

 技術者であるウォズニアックが作り上げたパソコンであるアップルの値段は当時で四十万円だったが、その機能は二百万円クラスのコンピュータに匹敵した。ずらりと並ぶパソコンの中でもアップルはスーパーマシンとまでも称えられた所以である。

 これで売れないわけがないのだ。他の人間がジョブズの立場であっても、やはり大売れに売れただろう。

 この奇跡を可能としたのがウォズニアックの天才的な技術力であった。ハードもそしてソフトもまさに芸術品と言えるものであった。それを私は知っている。回路図を目を皿のようにして見て、モニターのコードをすべて解析したのだから。

 機能を落とさないまま極限にまで削った回路。当時画期的だった回転パドルが、抵抗一個とコンデンサ一個そしてそれに対応した短いソフト一つで構築されている。

 ソフトもまた凄い。付属の2Kモニタに組み込まれている逆アセンブラはわずかに47バイトで構成されている。これで拡張表現までサポートするのだからまさに逆アセンブラの完成形であった。

 そして、それ以上に凄いのはウォズニアックの人格である。

 アップル上場直前、彼は部下の技術者たちを一人一人訪ねてアップル社の株を一株買うように勧めている。お金がなくて買えないという者には金なら自分が貸すから是非とも買いなさいとまで言っている。一緒に苦労した仲間も金持ちにしたかったのである。

 こういったエピソードに彩られるウォズニアックを技術者たちが気にいらないわけがない。こんなボスの元で働きたいと技術者なら誰でも思うはずだ。


 一方ジョブズはアップルで当てた後は失敗に継ぐ失敗をした。ネクストなどの次世代コンピュータなどで大コケし、数多の投資家を地獄に堕としたのである。それでも彼についた天才起業家という名前は大きい。失敗しても失敗してもどこからともなく投資家が寄って来るのだ。その内適当に撃った一発がまた大当たりする。

 iPodのヒットである。こうして彼は多くの屍の上に不動の地位を築いた。

 コンピュータで当てようとしていた人物が音楽プレーヤーで成功する。これを偶然の成功と言わずして何と言う?


 世の人が彼の名声を持てはやすのを見て、しみじみ思う。人間の眼は節穴でできている。

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