第19話 子どもたちは見ている

 昔から給食を残すことは批難の対象とされてきた。

 だがそれは食べることのできる料理であった場合だけだ。調理の段階で大失敗をやらかしたモノは、食べない者が悪いのではなく、調理した者に責があると考える。


 その日は小学校の給食調理のおばちゃんがやらかした。

 春雨スープを煮込み過ぎて、できたのは春雨スープに似た得体のしれない何かであった。おまけに味付けも失敗したのか、それは酷い代物であった。例えるなら他人が吐いたゲロの味。他人のゲロは味わったことがないがこう表現するのが正しい代物であった。

 子供たちは吐きそうになるのを我慢して、泣きながら食べた。ところが大きな給食缶の中にはまだ半分もゲロスープが残っている。

「お代わりする人?」

 教師が訊いた。誰も手を上げない。時間だけが経過する。

「お代わりする人?」

 再び教師が訊く。声に険しさが混ざっている。

 圧力に負けて一人だけ手を上げた。彼はその後にみんなの裏切り者として扱われることになる。

 このゲロスープは不味いから子供たちが食べないのではない。子供たちが我がままだから食べないのだ。教師はそう自分に言い聞かせると、鼻高々に宣言した。

「では全員に一杯づつお代わりをいれます。全部食べるまで給食の時間は終わりません」

 子供たちが全員泣いた。


 そして子供たちはしっかりと見ていた。

 その教師だけはお代わりしなかったことを。

 大人なんて口だけのクズだと、子供たちの前で見事に証明してみせたのだ。


 子供たちのために自らを犠牲にするだけの覚悟がない者は、教師になってはならない。心の底からそう思う。

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