第14話 タンバリンモンキー
母があるオペラ歌手を贔屓にしていたので、たまに音楽会に付き添いで駆り出されたことがある。
一曲が終わる。いつまでもいつまでも拍手が鳴りやまない。
予定の全曲が終わっても拍手が鳴りやまないので、アンコールが始まった。
なんとアンコールは十三曲にも及んだ。それでも拍手は鳴りやまない。
最後の頃にはもう歌手の声が掠れて酷いものだ。それでも拍手は鳴りやまない。拍手し続けていれば、いつまでも歌うと思っているのだ。この観客たちは。
まあアンコールに答え続けるこの歌手も歌手だ。観客が素晴らしさに拍手をしていると考えている。
違うのだ。彼らはただ安く音楽を聴きたいだけである。拍手をし続ければそれだけ多くのものが手に入る。いわばリップサービスのつもりなのだ。
外国では駄目だと思えばブーイングの嵐だが、お行儀の良い日本ではただただ拍手をする。
私はそれ以来彼らをタンバリンモンキーと呼んでいる。何も考えずただただ拍手をするだけの猿である。
歌の途中の一呼吸ですかさず客の叫びが入る。「ブラボー」
まだ歌には続きがあるのに台無しだ。彼は歌の全容も知らずに叫んでいる。
歌舞伎では客間から合いの手が入る。「よっ!〇〇屋」という掛け声だ。
勘違いされやすいが、あれは一般客がやっているのではない。通の客が予め打合せして合いの手を入れているのだ。言わば演出の一部。
ブラボーは違う。ただただ目立ちたいがためにゲリラ的に叫んでいるのだ。
私はそれ以来彼らをブラボーバカと呼んでいる。
音楽会はタンバリンモンキーとブラボーバカに満ちている。
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