第6話 病院の日常

 朝六時。どこかの爺さんの怒鳴り声が病院中に響く。

「看護婦さ~ん。飯はまだか!」

 徹夜明けの朝番の看護婦さんがやってくる。

「おじいちゃん。ご飯は七時よ。一時間待って」

 ぶつぶつと言いながら爺さんが黙る。

 十五分経つとまた爺さんが怒鳴る。周囲で寝ている人のことなどお構いなしだ。

「看護婦さ~ん。飯はまだか!」

「おじいちゃん。ご飯は七時って言ったでしょ。後45分かかるの」

 ぶつぶつと言いながら爺さんが黙る。

 さらに十五分経つとまた爺さんが怒鳴る。

「看護婦さ~ん。飯はまだか!」

「おじいちゃん。ご飯は七時よ」

 辛抱強いなあ、看護婦さん、と感心した。

 それが繰り返された後、ようやく七時になった。

「はい、はい。お待ちかねのご飯ですよ」

 看護婦さんが食事を配る。しばらくしてまた爺さんの怒鳴り声。

「看護婦さ~ん。飯が少ない!」

 ・・一呼吸置いて、ついに看護婦さんが切れた。

「知るか~! そんなことは療食部に言え! あたしは看護部だ!」

 うん、看護婦さんの怒鳴り声を聴いたのは人生で初めてだ。


 会社の先輩が入院したとき。

 同室の患者の下に美人の見舞客が頻繁に訪れて甲斐甲斐しく世話をしていた。

 平和で愛に溢れた光景。だがそれも、本妻が見舞いに訪れてその女性と鉢合わせするまでの話であった。

「いや~、あれ愛人だったんだね。周囲で見ていても気づかないわ」

 先輩が感想を漏らす。

 病室には刃物を置かないようにしないといけないなと思った。

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