第5話 痛み

 母は変形性膝蓋骨関節症で長い間苦しんだ。

 歩くたびにまるでカナヅチで骨を叩かれるように痛いと訴えていた。


 おかしくなり始めの頃、この病気の治療で有名な関東R病院にかかった。この病院はこの辺りの整形外科の大本である。

 いきなり整形外科の看護婦長に怒鳴られた。

「この程度で来られても何もできないわよ。もっと進行してから来なさい!」

 呆れたセリフである。母は素直に病状を我慢して、耐えきれなくなった頃にまた訪れた。すると同じ看護婦長が怒鳴った。

「こんなになってから来るなんて、あなた何を考えているの! もう手遅れよ!」


 関東R病院の看護婦長のクズ女郎。私は貴女を心の底から恨む。



 どうやっても治らないので、せめて痛みを止めようと母はペインクリニックを探した。選んだのは遠くの駅にある医院だ。ネットで派手に宣伝をしている医院だ。

「まずは痛みを止めること。それが患者のためです」

 小さな痛みでもまず麻酔というのを売り物にしている。ホームページでは医者が自分のギックリ腰の際にさっと麻酔注射を使ったことを自慢している。

 片道二万円のタクシー代を払って母は通った。貧乏性の母にとっては清水の舞台から飛び降りるような行為である。それほど痛みは酷かった。

 四回ほど通って母は力尽きた。いつまで経っても一般的なヒアルロン酸の注射だけで、肝心の麻酔(神経ブロック)は一切やってくれない。

 つまりは医者のヤルヤル詐欺だったわけだ。


 患者が受ける痛みと医者が受ける痛みはまったく質が違う。

 医は仁術などとは口が裂けても言ってくれるな。

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