第4話 渋み

 中学の頃、かかっていた個人経営のS医院がある。

 病気になるのは辛い。この医院の薬を飲まされるから。

 この医院の特徴は、出される薬がことごとく渋いことである。そう。味が途轍もなく「渋い」のである。

 渋柿の渋さと言えば分かって貰えるだろうか。口の中一杯に広がる渋さで、それは水を飲んでも地面に倒れて転がり廻っても離れてくれない渋さなのである。

 しかも出される薬に関係なくすべての薬が渋いのだ。下痢の薬も渋ければ、風邪の薬も渋い。

 恐らくだがこの医院は漢方薬系の薬を出していた。そう「センブリ」である。千回煮だしてもまだ苦いということからついた名前で、胃腸薬としての働きがある。だからあらゆる薬に混ぜて出しても問題がない。

 おまけに親はこの医院が気にいっていた。親は良いがそれに付き合わされる子供は堪ったものではなかった。

 良薬口に苦しという言葉があるが、どうやら親はこの言葉を信じていたらしい。


 人類の99%はどんな状況でも自分は幸福だと考えるマゾヒストである。そうでなければ人類が辿った長い苦難の日々の間に全ての人間が首を括って終わっていたであろう。

 そしてS医院もそんなマゾヒストたちによって支えられている医院であった。



 歳を取った現在、もう一回ぐらいならあの渋い薬を飲んでみてもよいかなと思う私がいる。

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