第3話 骨が折れた

 会社からの帰り道のことである。痛んだアスファルトの段差に躓いた瞬間、いきなり頭の中に衝撃音が響いた。バシン!

 骨が折れたと感じた。今のは骨伝導音。骨を通じて体内を伝わる音。右のカカトがひどく痛み、跪いてしまった。

 カカトの骨が折れたと直感した。物凄く痛いが、つま先立ちなら何とか歩ける。ようやく家にたどり着いた。

 そのままにしておくわけにもいかないので、慌ててネットで近隣の医者を調べて痛む足を引きずって出かける。


 最初の整形外科にたどり着いた。

「今日はもう受け付けていません」

 無情な声で看護婦が言う。ええ、まだ診察時間が一時間残っているじゃないか。

「今日は早じまいの日なんです」


 お前は鬼か。


 駅の反対側にある系列病院を紹介された。痛みに泣きながらそこまで歩いていく。

 受付の人が診察室奥の医者と話している。丸聞こえである。

「血が流れている?」

「いいえ」

「今日は帰ってもらって」


 クソ野郎。地獄に堕ちろ。テメエなんか医者を名乗る資格はねえぞ。

 そう大声で叫びたかったがそのまま帰った。私はヘタレである。

 こういった治療を拒否する医者を処罰する法律はないものか。


 次の日、また別の医者に行った。今度は女医だ。

 レントゲンを見て一言。「何ともないですね」

 はあ、そうですか。ではどうしてこれほど痛むのでしょう。

「足の腱鞘炎ですね」そう言いながら腱鞘炎のパンフレットをくれた。

「あのバシンという音は何でしょう? 腱鞘炎ってそんな音がするんですか」

「わかりません」

 堂々と言い放つ。お前はバカか。わかりませんじゃないだろう。それにこのパンフレットによると腱鞘炎はつま先立ちになると痛むと書いてある。カカトが痛いのでここまでつま先立ちで来たのだけどね。説明が全然症状と合っていない。


 これほど見事に誤診されたのはあの皮膚科以来だ。

 その後二週間、ネットで買ったニボシを齧りながらつま先立ち生活で過ごした。

 カルシウムは偉大なり。


 後でネットで調べたところ、カカトの骨は複雑な構造なため、骨折してもレントゲンに写らないことがあるらしい。骨折が修復されて修復痕ができて初めてレントゲンに写ることがあるという。


 ここで一句。

 浜の真砂は尽きるとも 世に藪医者の種は尽きまじ

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