第2話 痒み
何かの拍子に手首がかぶれてしまった。小さな赤い発疹が無数にできて恐ろしく痒い。
慌てて近くの皮膚科にかかる。小児科内科皮膚科兼任の病院だ。
年配の医者がこちらの手首をちらりと見て言った。「接触性皮膚炎」
まともに検査もせずに診断を下す。これは余程の名医かヤブ医者だ。
後者の方だった。
次の日、出された薬を塗った腕は肩の辺りまで湿疹が広がった。凄まじい痒さだ。このままでは気が狂う。
もう医者は信用できない。自分でアロマエッセンスオイルを何種類か調合し、泣くような思いで自分の体で実験する。幾つかの調合の内、一般に使うことが要注意になっている安息香のオイルが反応した。これを塗った部分だけ湿疹が茶色い瘡蓋に変化している。
それを使い何とか自分で治療を終えた。
調べてみると、接触性皮膚炎に出される抗ヒスタミン剤で悪化し、同時に安息香が効くのは、ヒゼンダニによる感染症つまりはノルウェー感染だ。患部の皮膚を顕微鏡で見ればすぐに分かるこの病気をあの間抜けな医者は一目ちらりと見て誤診してくれたというわけだ。
母が近所の人と話をしているとこれが話題になり、相手のおばさんが話をしてくれた。
以前にその医院の内科に通っていたそうだ。少しも容態がよくならないので他の病院に行ってみるとそこの医者に怒鳴られた。
「貰った薬をちゃんと飲まんか。あんたの病状は物凄く危険なんだ。飲まんと死ぬぞ」
「でも先生、私、薬なんか貰っていません」
「嘘をいうな!」ふたたび怒鳴られた。
「この病状なら絶対にこの薬が出ておる」医者は譲らない。
「でも貰っていないんです」おろおろと応える。
「どこの医者に通っている? 俺が電話して聞いてみる」
その医者はしばらく電話していたが、受話器を置くと素直に謝った。
「すまん。本当に出ていなかった。信じられん。あの医者、あんたを殺すつもりか」
「だからね。あそこにだけは掛かっちゃ駄目」近所の人は締めくくった。
この世の中は藪医者だらけ、いや、紐医者だらけ。
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