第1話 からくり
母は長い間変形性膝関節症に悩まされていた。膝の軟骨がすり減り、歩く度に足の骨が直接摺りあって痛むという病気だ。
『一足歩く度にカナヅチで骨を殴られているように痛む』というのが母の言葉だ。
そこに関節の病気治療率驚異の90%という医者の話がテレビで流れた。母が期待しないわけがない。
少し遠かったが無理をしてその先生がいる関東R病院に通い始めた。
番組で名前の出ていたN先生は当然ながら担当患者が一杯で、代わりにH先生につけられた。いつまで経っても少しもよくならない膝に業を煮やして母は何度もH先生に頼み込み、ようやくN先生に回して貰うことができた。
N先生はレントゲン写真をちらりと見てから一言。
「これはH先生に回しましょう」
このよぷな経緯があるのに、元の先生に戻せば虐められることは目に見えている。よくもまあこんな惨いことができるものだと呆れていたら、母が言った。
「もういいんだよ。あそこには二度と行かないから」
理由を説明してくれた。
「N先生の待合室を見たら分かったよ。若い子しか居なかったからね。最初から治る患者だけを選んでいるんだよ。それが奇跡の治療率のカラクリなんだよ」
なるほど。病院としても評判になる医者が居た方が宣伝になる。例えそれが実質詐欺でも、治療率そのものは間違っていないわけだ。
なお、この行為のどこにも、患者に取って利益になる部分はない。
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