第10話 石焼き芋

 前に住んでいた場所では石焼き芋屋が巡回していた。

 謎の石焼き芋屋。

 いしやきいも~の声がして買いに走って見ると、もういない。何度買いに出ても、ただの一度も姿を見ることができない声だけの存在なのだ。


 これで商売になるのか?


 それだけではない。さらに不思議なことがある。

 この石焼き芋屋、正月にも商売しているのだ。正月に石焼き芋屋に客が来るものなのだろうか?

 まあ、あり得ないことではない。


 もっと不思議なことがある。

 この石焼き芋屋、夏も出回っているのである。暑い夏にはふはふと石焼き芋を食する。

 うん、変だ。


 ある日その正体はこれではないかと思いついた。


 他国のスパイ。


 だから日本では正月や夏には石焼き芋を食べる習慣が無いことを知らない。うん、これなら腑に落ちる。

 それに気づいていて以来、石焼き芋を買いに外に出るのは止めにした。拉致されたら大変だ。

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