第6話 海水浴
小学生低学年の頃、海で殺されかけたことがある。
町内会で海水浴に行く企画が持ち上がった時のことだ。
総勢二十人ほどで海浜にテントを張り、ワイワイやっていた。
そのうち、大人の一人、二十歳ほどの若い見知らぬ兄ちゃんが、私の手を引いた。
「海に入ろう」
実は私は水が大嫌いである。
嫌がったがその人は聞いてくれない。ずかずかと私の手を引いて海に入っていく。じきに小学生低学年の足では届かない深さになり、その時点で肩車された。
「ボク、泳げないからね。ボク、泳げないからね」
必死で抗議してみる。男はザブザブと更なる深みに進む。この辺りで男が何をしようとしているかは分かった。
「戻って、戻って」必死の叫びは無視された。
予想通りに、男がしゃがんだ。海水が頭の上に来る。
必死に頭にしがみつくが、男がしゃがんでいるのではどうにもならない。海の中を空気を求めて転げ回った。
必死で何かに縋ろうとするが海水以外の何もない。しがみつこうとした私の体を男の手が遠くへ突き放す。海水が鼻にも口にもどぼどぼと流れ込む。
気が付くと天幕に寝かされていた。心配そうな母の顔が覗き込んでいる。
「泳げると思ったんだ」隣で男がしらりと嘘をつく。
当時から声が甲高いという理由で私の言葉は誰も聞いてくれないという習慣ができていたので、それ以上は誰も何も言わなかった。
人々の中には子供を殺したがっている人間が相当数混ざっている。
子供を苦しめて楽しみたいという人間もかなりの数が混ざっている。
世の親たちはこのことを肝に銘じておくべきである。
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