第5話 妖怪

 妖怪を見たことがある。


 夜の十一時、国分寺の駅のことである。

 目の隅に映る小さなセーラ服姿。背中に背負った赤いランドセル。


 こんな深夜に女子小学生が駅の中を歩いている。日本は治安が良いがそれにしてもこれはやりすぎだ。

 目をそちらにやり、息を飲んだ。自分の目が信じられないと思ったのは人生で初めてだった。


 小学生の体の上についていたのは、頭の禿げあがった中年のおっさんの顔だった。バーコード禿げに浮腫んで日に焼けた茶色い顔。体に比して不釣り合いに大きな頭。


 それは真っすぐ前を見て歩いている。異様な姿なのだが、何故か周囲の人々は一顧だにしない。


 それが成長障害を抱えて頭のおかしくなった中年のおじさんなのか、それとも顔だけ何らかの奇病により中年のおじさん顔になってしまった可哀想な女子小学生なのか、それとももしや春の宵に誘われて地の底から湧きだしてきた妖怪のなのかは、今にしても判断がつかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る