第2話 通勤時の電車で見かけた変な人

 その男は閉まりかけたドアに沿って滑り込んできた。

 眼鏡をかけたやや小柄な痩せぎすなサラリーマン。閉まったドアに背中を向けて立つと、両手をぴたりとつけて高く上に上げた。まるでバレリーナのように。伸ばした手の先だけを水平に開いて微動だにせず立っている。

 この人はいったい何をしているのだろうと見つめてしまった。

 彼は一切の表情を見せずにその姿勢のまま立っている。周囲の人の目は無視だ。


 次の駅についた。ドアが開く。男はドアと一緒に体をスライドさせると、くるりと反転して視界の外に消えた。その動きに効果音をつけるな「しゃらららん」という感じだ。

 ドアが閉まりかける。ふたたび男がドアに沿って滑り込むように入って来ると、両手を高く上げてバレリーナの姿勢になる。


 これはいったい何をしているのか? 新手の暗黒舞踊なのか?


 そこではっと気づいた。

 この男、電車の中の人間にも電車の外の人間にも、一切その背中を見せていない。ドアの合わせ目に両手を上に伸ばして立てば、窓の外からはドア枠の金属しか見えない。そしてドアの開閉の際には、動くドアの合わせ目に背中をつけて乗り降りする。そうすれば背中はいつでも電車の車体に隠れることになる。

 ジョジョの奇妙な冒険に出てくる「背中を見せると死ぬスタンド」。あれだ。あれに憑かれているのだ。この男は。


 残念ながら次の駅で降りたのでその後その男がどうなったのかは私は知らない。

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