第1話 町で見た変な人

 背後を歩いている男の人が携帯相手に大声で話をしている。実に迷惑だ。

 最初はそう思った。

 ちらりと後ろを見て、凍りついた。そのサラリーマン風の男は携帯電話なんか持っていなかったのだ。彼は隣に居るはずの女の人と楽しく大声でお喋りをしていた。

 何度目を凝らしても彼のお喋りの相手はどこにもいない。


 スーパーの階段を女の人が一人、叫びながら上ったり下ったりしている。

「課長も~、部長も~、社長も~、ヒラも~」

 ただそれだけを繰り返しながら何度も何度も上ったり下りたりしている。

 周囲の客は礼儀正しく彼女を無視していた。さすがに彼女が上っている階段に近づくものはいなかったが。


 本屋に入ったらいつもと違ってお客が一人しかいない。

 その女性のお客は本棚から取り上げた本を広げて、直立不動の姿勢で本の内容を高らかに朗読している。確かにこれでは他の客はみんな逃げてしまう。

 お店のレジでバイトの人が困った顔で彼女を見つめている。


 この街は病んでいる。そう思った。

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