第48話 『兄弟』


 昼食後、俺は3人と分かれて1人王都の街を歩いていた。


 北大通りを歩いて街の中央広場までやって来ると、次は西大通りの方へと入っていく。

 そして西大通りへ入って歩く事数分後、俺は大きな施設を前にして立ち止まっていた。


「おぉ〜、ここが王都の騎士団詰所か…。めちゃくちゃ敷地広いな……」


 そう、俺が今立っているのは兄ちゃんが配属されている王都騎士団の詰所の前である。


 兄ちゃんへ会いにここまで来たが、手紙を送ったのがモルフィート出発の1週間前と急過ぎたので、正直会えるかどうかはまだわからない…


 とりあえず入ってみるか…

 たしか詰所の入り口を入ってすぐの所に来客用受付ってのがあるはず。


 俺は門を潜り抜けて、敷地内にある詰所らしき建物の入り口から中へと入ってみる。

 すると、聞いていた通り入り口すぐ正面に受付のような小窓があったので、その小窓を覗き込んで中へ声を掛けてみる事にした。


「すいませーん」


「……はーい!」


 返事が聞こえてきたと思ったら、小窓の向こう側に気の良さそうなお爺さんがすぐ現れた。


「はいはい、なんの用でしょう?」


「あのー、兄に会いに来たんですけど呼び出してもらう事って出来ますかね? 一応兄には事前に来ると伝えているんですけど」


「お兄さんのお名前は?」


「ニコール・エンゲルスです。リンクが来たと伝えて貰えればわかると思います」


「はいはい、ニコール・エンゲルスね。確認してみるから少しだけ待ってておくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 お爺さんが確認してくれている間は大人しく待っておくしかないな。

 兄ちゃんが詰所内にいてくれればいいんだけどな…




 数分後、入り口から伸びる廊下の奥から、正月ぶりに会う兄ちゃんが歩いてきた。


「おーい!リンク!」


「兄ちゃん久しぶり!」


「久しぶりだな。よく来てくれた!」


「そりゃ来るよ!せっかく王都に来たんだしね」


 父さんと母さんからも兄弟仲良くって言われてるしな。


「とりあえず、こんなとこで話してても仕方がないから談話室へ行こう。あっ、もう昼飯は食ったか?」


「ちょうどここへ来る前に食べてきたよ」


「そうか。ならゆっくり話せるな!」


 そのまま話をしながら兄ちゃんの後をついていくと、ソファや机がいっぱい置いてある広めの部屋へと通された。


 俺達は適当なソファに座ってゆっくり話をし続けた。

 モルフィートの街から出る事となった経緯や、家族の近況報告、Dランク冒険者にランクアップした事、新しく仲間が増えた事。


 俺についての話は色々したのだが、兄ちゃんはこの数ヶ月変わり映えしない生活を送っていたようで、少し羨ましそうに俺の話を聞いていた。


「俺も冒険者になっとけば良かったかもな……」


「騎士も立派な仕事だって!あまりにも退屈で嫌になったらこっちの世界へおいでよ」


「そうだな…。辞めたくなったら冒険者になる事にしよう」


「その時は是非『雷鳴』へ」


「あぁ、その時は世話になるよ」


 会話が一瞬途切れたので、ふと談話室の窓へ視線を向けると空が夕焼けで赤らみ始めているのが目に入った。


「…えっ?もう夕方!?」


「おぉ…本当だな」


「それじゃあ俺はそろそろ宿へ戻る事にするよ」


「そうか」


 俺と兄ちゃんはソファーから立ち上がって談話室を出た。

 出口へ向かう廊下を歩きながら話を続ける。


「明日はパーティで何か用事とかあるか?」


「んー、軽く依頼でもこなそうと思ってたぐらいかなぁ」


「それなら、昼まで王都案内してやるから午前の時間空けてくれよ。リンクの仲間達にも会いたいし」


「おー!王都案内いいねぇ!全然空けるからお願いするよ」


「よし、決まりだな。宿は何処を取ったんだ?」


「『鶴楽亭』ってとこだけど、なんで?」


「おー!良い宿選んだな!とりあえず、『鶴楽亭』なら場所もわかるし朝迎えに行くから」


「そういう事ね。迎えに来てくれるのは助かるよ」


 話しているうちに詰所の門まで来ていた俺達は、明日も会えるという事でサッと別れた。


 俺はそのまま『鶴楽亭』へ戻ると、合流した仲間達と一緒に宿で夕食を食べながら明日の事について説明をした。




 翌朝。

 いつも通り早い時間に目覚めた俺とファルとクリスは、一緒に宿を出て中央広場へと走る。


 広場へ着いてからは、各々自分のペースでランニングだけ済ませて宿へと戻った。




 朝食後、宿の前で待っていると兄ちゃんがやって来た。


「おはよう兄ちゃん」


「あぁ、おはよう。ファルは正月ぶりだな」


「ええ、お久しぶりですニコールさん」


 …そうか、ファルは正月兄ちゃんが帰ってきた時に会ってたんだったな。


「それで君達2人がクリスとオードリーだね?」


「どうもはじめまして。リンクと一緒に冒険者パーティを組んでいるクリスと申します」


「は、はじめまして。私はオードリーって言います!」


「んー、2人とも堅い!もっと気楽な感じでいいから!」


 確かに2人とも兄ちゃんが言った通りガッチガチだな…!

 どうしたんだ? クリスは元々真面目だからわかるけど、オードリーのこの感じはなんだ……?


「気楽だなんてそんな…!」


 ん?あれ…?

 なんかオードリーの顔が赤くなってる気がする……えっ?嘘でしょ?


 もしかして……惚れたのか!?




 兄ちゃんの王都案内は、オードリーのせいで妙なスタートを切る事となった…

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