第三章 冒険する冒険者編
第46話 『王都』
【アーク歴 3033年 4月18日】
モルフィートの街を旅立ってから10日が経った。
俺達は未だに馬車に揺られながら王都への道を進んでいる。
この10日間の旅路は特にハプニングも無かったのだが、いかんせん暇過ぎたのでパーティメンバー全員でお互いの魔法スキルの応用方法などについて語り合っていた。
もちろん、馬の休憩時間や野営前後には模擬戦などをして体を動かす事も忘れてはいない。
俺的に意外だったのが、オードリーが模擬戦に前のめりで参加していた事だ。
オードリーは俺達3人と違って戦い方の基礎を学んでこなかったので、それが新鮮だったのかもしれない。
「おーいお前ら!そろそろ王都が見えてくるぞー!」
俺達が馬車の中で話をしていると、馬車の外からこの道中で割と仲良くなった御者のおっちゃんの声が聞こえてきた。
「おっ!? そろそろか!!」
「やっと宿に泊まれるのね…!」
……どうやらオードリーは今回の馬車の旅に思うところがあったみたいだ。
俺達は景色が見えるように馬車の前方へと移動する。
「おっちゃん、あとどれぐらいで見えてくる?」
馬車の前方は御者台と繋がっているので、俺は御者のおっちゃんに声を掛けた。
「もうすぐ見えるさ。今登ってるこの丘を越えれば………ホレ!見えた!!」
「「「「おーぉぉぉおお!!!」」」」
丘を登りきったところで俺達の目に映ったのは、城壁に囲まれたとてつもなくデカい街だった。
「これが王都……!」
街の大きさは目算でモルフィートの3倍ぐらいはある…
モルフィートも結構大きな街だと思ってたんだが、流石王都だな……
「なんか門の前に列が出来てるけど、あれはなんだ?」
俺が王都を眺めていると、ファルが横で疑問を発した。
「坊主、ありゃ門で騎士達が王都へ入る奴らの検査をしてるんだよ」
「…ん?なんでわざわざそんな事をする必要があるんだ?」
「そりゃあ違法な物を街へ持ち込ませないようにしたり、犯罪者を街へ入れさせないようにする為だな」
…おっちゃん優しいなぁ。ちゃんと丁寧に教えてくれてる。
モルフィートにはああいう関所みたいなものが無かったから、ファル達がよくわからないのも無理はないけどな。
「おっちゃん、王都へ出入りする時は毎回列に並んで検査しないと駄目なのか?」
「いや、そんな事無いぞ。そもそも列が出来るほど出入りが多いのは、今俺達から見えてる東門と反対側の西門だけだ。王都は東西に伸びる大きな街道の上にあるからな」
ほうほう、なるほどな……
ブランデン王国を横断する大きな街道の中心地だからこそ、王都は発展したってわけか。
「北門と南門は比較的空いてるからサクッと出入り出来るわけですね?」
今度はクリスが御者のおっちゃんに質問している。
「まぁ東西に比べりゃそうだな。だが、王都を南に下ったら港町があるんだよ。だから南門は朝方に海産物が運び込まれたりする影響で結構混む事が多いぞ」
「へー、って事は王都だと海の幸を味わえたりするんだな。北門は?」
「北門はほとんど冒険者専用だな」
「ん?冒険者専用ってどういう事?」
「あー、そういやお前らは冒険者だったか。北門が冒険者専用っていうのは、北東に山、北西に森、そしてその中心にはダンジョンがあるっていうのが主な理由だわな」
「おぉ…!!なるほど!」
「冒険者ギルドも北門の近くにあると思うから、お前らはまずギルドへ行って情報を集めてみるといい。細かい事は俺にもわからんからな」
「わかった、そうするよ。ありがとうおっちゃん」
「気にすんな」
これは良い情報を貰ったな…
おっちゃんの言う通り、まずはギルドへ行って資料室で色々調べてみる事にしようかな。
話している内に、俺達の乗る馬車は東門に並ぶ列の最後尾へと着いた。
列が進むのを待つ間、俺達は王都へ入った後の予定などについて話をして時間を潰した。
列が進み、いよいよ俺達の順番が回って来たようなので馬車を降りる。
すると、門番をしている騎士達が俺達の元まで来て、手荷物検査とプレート確認を順番にしていく。
クリスのプレートを確認した騎士が一瞬ギョッとするのを目にしたが、あとの検査は滞り無く進んでいった。
おそらく、その騎士はクリスの名前を見て驚いたんだと思われる。
「よし、問題無しだな。通行を許可する」
「どうも」
俺達は騎士達へ一礼してから前へ進んでいく。
そして、門をくぐり終えて見えてきたのは活気良く賑わう王都の街並みだった。
「おぉ……これは凄いな…」
横でファルが珍しく声を出して感動している。
「本当だね…。何もかもが大きく感じるよ…」
「くっ…ちょっと人が多過ぎない…!? 私はこの人混み苦手かも!」
クリスとオードリーも様々な感想を漏らす。
オードリーはどうやら人の多さに参ってしまっているようだ。
確かにこれは大都会って感じだな…
人混みが苦手な人には結構厳しい環境かもしれない。まぁ、東京よりはマシだと思うけど。
「おーいお前ら、俺はここでお別れだ」
「えっ?あっ、おっちゃんここまでありがとうね。はいこれ、料金の半分」
王都の街並みに気を取られて、おっちゃんの存在を完全に忘れてた……
ちなみに、モルフィートから王都までの運賃は12万ブランで、料金の支払いは出発前と到着後に半分ずつ渡す事になっている。
「ひぃ、ふぅ………よし、まいど。そんじゃあお前ら達者でな」
「あぁ。おっちゃんも達者で!」
別れの挨拶を済ませると、おっちゃんは馬車を引きながら何処かへと去っていった。
「よし!ここに突っ立って街を眺めていても仕方が無いし、さっさとギルドがある方へ向かおうか!」
「「「りょうかーい」」」
……返ってきた返事は浮かれているせいでとても腑抜けたものだったが、なんとか動き出して俺の後ろをついて来てくれているようだ。
俺達は街並みを眺めながら、門から続く大通りを真っ直ぐ街の中央へと歩いていく。
列に並んでいる間に御者のおっちゃんからチョロっと聞いた話だと、街の中央から東西南北へ向かって大きな通りが十字に伸びており、その大通り毎で違う特色を持っているらしい。
今俺達が歩いているこの東大通りには、土産物屋や飲食店などの観光客向けの店が多く並んでいる。
反対側の西大通りには、観光客向けの宿屋や上層階級向けのレストランなどが並んでいるらしい。
南大通りには市場や生活用品を売る店などが多数並んでおり、住人達の生活を支える為の通りとなっている。
そして、俺達が今向かっている北大通りには、武器防具屋や鍛冶屋などの仕事に必要な物が売っている店が多く並んでいて、他にも様々なギルドの施設があったりもする。
前世で言うところのビジネス街に近いだろうか。
街並みや店を眺めながら大通りを歩いていると、通りの先に大きな建物が建っているのが見えてきた。
「……おいおいおい、なんてデカさの城なんだよ!!」
通りを進むたび徐々に見えてくるその建物は、この街の中央部に堂々とそびえ立つ巨大な城。
そう……この国『ブランデン王国』の国王が住まう王城である。
「………」
「アレに比べれば僕の家なんて大した事無いね…」
「あぁ…なんて素敵なお城なの……。物語に出てくるお城そのものじゃない…!」
………みんなが三者三様のリアクションを見せてくれているのだが、俺的には言葉を失ってポカン顔になっているファルが結構ツボである。
「本当とんでもないな。この国にとって王がどれだけ大きな存在なのか、身に染みて感じさせられるよ……」
前世の価値観を持っている俺にとって、今まで王の存在というものにあまりピンと来てはいなかった。
だが、あの馬鹿デカい王城を生で見てしまうと、嫌でもその存在の大きさを思い知らされる…
俺は絶対あんなとんでもない権力とは関わらないぞ……!!
俺はこれからも慎ましく生きる事を心に誓った。
俺達は東大通りを順調に進んで、やっと街の中央部まで辿り着いた。
思ってたよりも結構歩いたな…。
門から中央部までだいたい30分近く掛かったんじゃないか?
それにしても……
改めて間近で見ると、本当に壮観だな…!
大きく頑強そうな王城の周りには深い堀が造られており、その堀を囲うように大きな広場が円形に広がっている。
広場は大きな公園のようになっており、遊具やベンチなども備え付けられていて、軽食が売られている出店なども見える。
「この広場はランニングに最適なコースだな!」
「おー、確かにそうだね」
「流石に素振りや模擬戦は出来ないだろうけどな」
俺が感想を述べると、クリスとファルも同調して応えてくれた。
「あなた達……この綺麗な広場を見て出てきた感想が本当にそれなの…?」
「「「…………」」」
どうやら、オードリーだけは違う感想を持ったようだ…
ここらへんの違いはオードリーが女の子だからなのか、ロマンチストだからなのか、俺にはよくわからない……
「と、とりあえず北大通りの方へ向かおうか…」
何故だかわからないが俺、ファル、クリスの男3人は、謎の罪悪感を少しだけ感じながら北大通りへ向かう事となった。
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