第44話 『決断』
俺達は現在、ファルとクリスへの濡れ衣が晴れたという事で、ギルドから出て家へと帰ってきている。
会議室でタンデムを新魔法の『ショック』で気絶させてしまった後、皆一様にポカンとしていたが、数秒経って状況を理解出来ると各々動き出して室内が慌ただしくなった。
まぁ、俺のせいなんだけども…
ギルド職員2人はタンデムに息があるか急いで確認して、『
俺は『ソニック』の発動を継続していたので、エミリアさんが一喝して状況を収めるまで会議室内を逃げ回った。
その間ウチのメンバーは、呆れた表情で俺の追いかけっこを眺めているだけだった…
ある程度状況が収まってくると、俺を追いかけていた『伝弓』のメンバーにもタンデムは失神しているだけだと知らされたらしく、徐々に我に返って落ち着き始めた。
そして、改めて自分達の罪を思い出したのか、思い詰めた表情をしながらギルド職員達に会議室の外へと連れていかれる事となった。
俺は『伝弓』が外へ連れて行かれた後エミリアさんからこっぴどく叱られた…
まずは、俺が会議室へ入って速攻でタンデムを煽り始めた事。
そして、俺達の計画を知らなかったので素材の数が『伝弓』の申告と一致した時に本気で驚いたという事。
極めつけは、ギルドの会議室という場でタンデムが失神する程の魔法を放ってしまった事…
「加減ぐらいしなさい!」と、凄い形相で叱られたので俺はペコペコと頭を下げて謝る事しか出来無かった……
開発したばっかの新魔法だったから、充分に検証が出来てなかったんだよなぁ…
一応Dランク冒険者って事だったから『ショック』を使う事にしたのだが、よくよく考えたら人体へ使うような魔法じゃなかった…
普通に『スタンガン』で充分だったよな……
このようにしっかり反省もしていたので、エミリアさんの説教からは昼過ぎ頃に解放してもらう事が出来た。
今は家のリビングにて『雷鳴』4人で話し合っている。
議題はモルフィートを離れるかどうか、そしてもし離れるのなら何処へ向かうか、この2つに関してだ。
「それでどうする? 今回はいよいよ俺達も面倒事に巻き込まれてしまった訳だが、俺はこの街を離れる良いきっかけが出来たとポジティブに考える事にしてみた。みんなはどう思う?」
「街を離れる覚悟は常に出来てる」
俺の言葉にファルは間髪入れずそう答えた。
コイツの精神力はもう既に俺なんかよりも大人な気がする…
流石にまだ知恵や知識の面では成長しきれていないが、この冷静さと自立心、そして前に進む事への恐れの無さに関しては『雷鳴』随一だ。
「僕も街を出る覚悟なら前から出来ているつもりでいた… けど、今回の一件のおかげで本当の覚悟が出来たよ。この街を出よう。自由に活動をしていくにはそれが1番だと思う」
クリスもよく考えた結果、街から出る事を決意したようだ。
しかし、コイツは『雷鳴』の中で最もモルフィートの街へ愛着を持っている奴だ。
それは、誰よりも優しく愛情深い気質が大きな要因なんだと思う。
2人の兄が既に街の外で仕事をしているので、自分まで街を離れるとなったら残された家族や使用人達が寂しい思いをするだろうと、今まで引け目を感じていたのは間違い無いだろう。
それが、今回のいざこざで吹っ切れられたのだとしたら、結果的にはクリスにとって良い出来事だったのかもしれない。
「ついに…ついに外の世界へ羽ばたく時が来たのね…! さぁ、私という物語の第二幕が幕を開ける!」
………うん、コイツは心配するが必要無いな。
オードリーは『雷鳴』へ加入したばかりの新人魔女っ子な訳だが、目的意識や強くなる事へのモチベーションのおかげで、俺達に馴染むのが異様に早かった。
当初は、パーティの紅一点という事で気を使う事もあるのかな?と、思ってたりした事もあったのだが、今では全く気を使う必要が無い良好な関係が築けている。
…というより、ファルとクリスからは第二の俺だと判断されているみたいだ。
おそらく、高い好奇心と探究心と向上心を持っている点が俺と重なって見えるのだろう……
「よし、全員意見が一致したな。それじゃあこれからは街を出るという方向で準備を進めていこうか」
「それは了解なんだけど、いつ街を出る事になりそうかな?」
うーん、そうだなぁ…
家の契約もあるから、今日明日ですぐに出ていく訳にもいかないし、家族や世話になった人達へ挨拶して回る必要もある…
…そうなると、出発するのは早くて1週間後になりそうだな。
「じゃあ1週間後に出発する事にしようか。だから、3人はそれまでに家族や親しい人達へ挨拶を済ませておいてくれ」
「「「了解」」」
「それじゃあ次は、街を出てまず何処へ向かうかについてだが…」
「もう決まってるのか?」
ファルが少しワクワクしているような表情をしながら尋ねてきた。
「あぁ…。まずは王都へ向かってダンジョンを攻略しようと思ってる」
俺がそう言うと、3人は目を輝かせて口角を上げていく。
どうやら、俺の提案は3人の心に見事ヒットしたようだ。
「そういう事だから、これからの1週間はそのつもりで準備に勤しんでくれ」
「おう!」
「わかった!」
「任してちょうだい!」
今後の予定を決める話し合いを終えた後、やる気満々の3人は意気揚々と外へ出ていった。
おそらく、すぐにでも準備へ取り掛かりたかったのだと思われる…
俺も準備へ取り掛かるため動き出す事にした。
◆
【アーク歴 3033年 4月8日】
あれから1週間が経った。
この1週間は、パーティメンバー全員が準備に追われ忙しい日々を過ごす事となった。
俺は家族、領主、エミリアさんに挨拶を済ませて、あとは家の大掃除や領主邸での調べ物などをして1週間を過ごした。
特筆する点があるとすれば、鋼の剣を1本買った事ぐらいだろうか。これで俺の手持ちの武器は、鋼の短剣、鋼の剣、鉄の両手剣という事になる。
両手剣だけは格落ちになってしまっているが、ここはこれからの課題になってくるだろう。
兄ちゃんへの手紙の発送については、王都へ向かう事が決まったその日の内に済ませているので、既に向こうでの案内の心配は無くなっている。
唯一心配事があるとしたらエマについてだ……
エマには、街を出る事が決まったその日の夜に説明を済ませている。
だが、エマは困惑してすぐに答えを出す事が出来ずにいた。
1週間が経ってしまった今でも、まだどうするかの答えは聞く事が出来ていない…
こればっかりはエマ本人が決める事なので、俺から口出しするような真似はしないつもりでいた。
しかし、既に今日は俺達が出発する日…
エマの決断が気になるのはもちろんだが、何より精神状態の方が心配だ……
俺達は王都までの道中で必要な物以外の荷物をクリスの『収納魔法』へ入れて支度を済ませると、家の前でオードリーと合流してから街の西門へと向かった。
門までの道を目に映る風景を頭へ焼き付けながら歩いていく。
門が見えてくると、その付近に見覚えのある顔が数人立っているのが目に入った。
「あなた達ー!見送りに来たわよー!」
向かってくる俺達にいち早く気付いたエミリアさんが、いつも通り受付嬢の格好をして手を振りながら大声を掛けてきた。
俺達は少し早足でエミリアさんの元まで急いだ。
「ギルド長がわざわざ見送りに来るなんて、また贔屓だなんだと言われちゃいますよ?」
「そんなの別に構わないわよ!実際贔屓目に見てたのは間違い無いんだから!」
「……えっ?」
「あなた達は真面目に依頼をこなしてたし、ギルドとして将来性にも期待してたからね。 あっ、でも流石に貢献度までは弄って無いわよ!?」
「そ、それなら良かったです…」
「私の事なんてもういいから、見送りに来てくれている家族達に顔を見せてきなさい」
「はい。でもその前に、エミリアさん長い間本当にお世話になりました!」
「「「お世話になりました!!」」」
俺の言葉に続いて、3人も深く頭を下げながら感謝の言葉を口にした。
「あなた達… 私の方こそ今まで楽しませて貰ったわ。ありがとう」
「こちらこそです。それじゃあ!また街へ戻ってきた時はギルドへ顔を出しますんで!」
「絶対顔出しなさいね!」
俺達はもう一度エミリアさんに対して頭を下げて別れの挨拶をすると、家族達が待つ方へと歩き出した。
「あぁ…!! 子供が欲しくなったわ…!!」
…エミリアさんの悲痛な叫びが後ろから聞こえてきたが、俺達は少しも振り返らず、苦笑いを浮かべながら家族達がいる方へと向かった……
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