第43話 『会議室にて』


「まずは、昨日話し合ったとこまでを簡単におさらいしていくわね」


 俺達が全員席へ着いた事を確認したエミリアさんが話し合いの口火を切る。

 どうやら、話し合いの進行はエミリアさんが務めてくれるようだ。 流石ギルド長。


「今回の事件の発端は、そこにいるDランクパーティ『伝弓でんきゅう』がギルドへ訴えを持って来たところから始まるわ」


 へぇ…この人達Dランクなのか。

 …となると、俺達のスピード昇格が余程気に食わなかったって事が今回の原因かもな……


「という事で、もう一度あなた達の言い分を聞かせてもらってもいいかしら?」


「もちろんだ。でも、まずは俺も名乗るとこから始めさせてもらう。ガキから先に名乗られたままってのは気分が悪いしな。俺はDランクパーティ『伝弓』でリーダーをやってるタンデムってもんだ」


 この男がリーダーね。年齢は30歳ぐらいか…?

 口調からも出ているが、見た目もなかなか粗暴って感じだな。


 俺は出来る限りの爽やかスマイルでタンデムへ挨拶を返す。


「どうも♪」


「なっ! 何笑ってんだ糞ガキ!! ナメてんのか!?」


「いえ、ナメてませんよ? 俺は名乗ってもらったのでただ紳士的に挨拶を返しただけですけど」


 今度は打って変わって、真面目な顔でタンデムの事をジッと見つめる。


「っ!気色の悪いガキだ…!」


「酷い言われようですねぇ」


「……そんな事はいいから話の続きをしてちょうだい」


 状況を見ていたエミリアさんから、冷静だがお叱りの声が飛んできた。


「あ、あぁ、わかった…。言い分って言うか真実なんだが、そこの髪を縛ってるガキと甘い顔のガキが俺達から魔物の素材を盗みやがったんだよ!」


 ガキって言い過ぎだろ…

 どんだけ年齢にコンプレックス持ってんだ…


「それで、あなた達の望みは?」


 エミリアさんがさらに話を促す。


「まずは盗んだ素材の返却だ!あと、ギルドへはこいつらの冒険者ランク降格を要求する! そもそも、こんなガキ共が本当に昇格出来る程の貢献度が稼げたのか? もし稼げていたとしても、本当に自分達で稼いだ貢献度なのかは甚だ疑問だと思うがな!」


「…わかったわ。『伝弓』側の言い分はそこまでね」


 うーん、なるほど… 要するに、俺達が今まで稼いできた貢献度も盗んだ素材のおかげって事にしたいわけね…

 これは相当俺達のDランク昇格が気に食わなかったんだな。


 俺はエミリアさんへ視線を向けながらスッと手を挙げる。


「リンク、何か言いたい事があるの?」


「はい。いくつかタンデムさんに質問したい事があります」


「なんだガキ…?何が聞きたい? っていうかお前のパーティの問題なんだから、もちろんお前も降格してもらうつもりだからな」


 はいはい、俺の冒険者ランクも把握してるわけね…


「質問があるならしていいわよ」


 エミリアさんが続きを促してきたので、俺は話を進める。


「それじゃあまず1つ、『伝弓』は5人パーティで間違い無いですか?」


 俺は対面に座っている5人の冒険者達を眺めながら確認する。


「ああ。ここに座ってるのが『伝弓』のメンバーだ」


「そのうちDランク冒険者は何人ですか?」


「あん? 4人がDランクで1人がEランクだ… それがなんだってんだよ!?」


「ウチのファルとクリスはDランクに上がったばっかなんですよ。まぁ僕もなんですけど」


「だからなんなんだよ!?」


 俺の遠回しな喋り方にタンデムは焦れてイライラし始めている。


「『伝弓』の皆さんはベテランのDランクが4人もいて、新米のDランク2人に素材を盗まれたって訴えてるんですよね? それって自分達がDランクに見合って無いって言ってるようなものじゃないですか?」


 俺は純粋に疑問を呈するような表情でタンデムを見つめながら尋ねる。


 すると、タンデムは慌てるように立ち上がって怒鳴り始めた。


「そ、そんな訳ねぇだろ!! 俺達が魔物と戦ってて荷物から目を離してる隙にソイツらが盗んでいったんだ! 隙を突かれただけで戦闘で負けた訳じゃねぇ!」


「なるほど…。魔物と戦っていて目を離した隙に盗まれたんですか… という事は、回収した素材は背負わずに何処か一箇所にまとめて置いてあったって事ですか?」


「そ、そうだ!」


「見張りも置かずにですか? 『伝弓』さんは普段からそんな無警戒に狩りをしてるんですか? Dランクなのに」


「違う!! 新人のミゲルが見張り担当なんだよ!」


 タンデムはそう言いながら自分達川の1番端に座っている青年を指差している。


 ……ん? このミゲルって奴見覚えがあるな…

 コイツもしかして学塾の同期じゃねぇか…?


「ミゲル、多分だけど君は俺やファルと同期だよね?」


「…ああ、そうだ。それがなんだ?」


 やっぱりそうか…

 って事は俺達の情報はコイツから流れたって事だな。

 睨んできてるって事は、コイツも俺達に思うところがあるのか。面倒くせぇ…


「見覚えがあったから気になってな。それでミゲル、君が見張りをしてたのは間違いないんだよな?」


「だからそうだって言ってんだろ!!」


 俺はミゲルに質問したのだが、それが気に食わないのかタンデムが怒鳴りながら答えてきた。


「タンデム、リンクはミゲルに聞いてるのよ?」


「な、なんで被害者の俺が注意されなきゃいけないんだよ!やっぱりギルドはコイツらを贔屓してるんじゃないのか!?」


 エミリアさんの発言でタンデムが逆上してしまったようだ。


 っていうか、やっかむ気持ちが態度に出過ぎてるんだよなぁ…

 コイツがリーダーやってて大丈夫なのか…?


「落ち着いてくださいよ。それとも、ミゲルに質問されて何かまずい事でもあるんですか?」


「…おい、なんだその口の利き方は? お前ナメてると…」


「いいんですか? ギルド長の前で脅迫しても」


 俺はタンデムの発言を遮って忠告をする。

 すると、タンデムはエミリアさんの方をチラッと見た後舌打ちをした。


「チッ…! 冗談だよ、冗談。何もしねーよ。 …ミゲル答えてやれ」


「はい…。タンデムさんがさっき言った通り、俺が見張り役をやっていたって事で間違い無い」


「そうか。でも君が荷物を見張っていたんなら、どうやって盗まれたっていうんだ?」


「それは… そこにいる2人が力づくで…」


「力づく? その割には君に傷1つ無いように見えるんだけど?」


「いや、違った! 剣を向けられて脅されたんだ! 2人は荷物を渡さないと殺すって脅してきたんだよ!!」


「へー、君は同じ歳ぐらいの男2人に脅されただけで、抵抗する事もせず荷物が入ったバッグを1つ渡した訳だ」


「そ、そうだ! 流石に2対1だと命が惜しいからな! バッグ1つ渡して助かるなら仕方がないだろ!!」


「確かに命を守る為なら仕方ないかもね。じゃあもう一度確認するけど、ウチのファルとクリスが君を脅してバッグ1つ盗んでいったって事で間違い無いね?」


「そうだ! 殺されたくなかったからな!」


「…タンデムさんもミゲルから今の話を聞いたんですね?」


 俺はタンデムの方へを向き直して尋ねる。


「ああ、そうだ! さっきから何が聞きたいんだお前は!?」


 ここまではとりあえず予定通りだ。

 でも、ここからは少し賭けだな…


「その魔物の素材が入っていたバッグは1つって言ってましたけど、見張り役って事はミゲルが普段から背負っていたんですよね?」


「そうだ!」


 よし…。これでとりあえず第1関門突破だ…


「そうなんですね。それじゃあクリス、昨日回収した分の素材を全部出してくれ」


「おっ、なんだ? やっと罪を認めて返す気になったのか!?」


 タンデムは事態が好転したと思ったのか上機嫌になっている。 横目でチラッとミゲルの表情も確認してみると、コイツも事態が好転したと思ったようで安心した表情になっていた。


「リンク、素材は全部出したよ…」


 そうこうしている内に、クリスは『収納魔法』から昨日狩った分の魔物の素材を全て出し終えた。


「わかった。それじゃあエミリアさん、『伝弓』が盗まれたと言っている素材が、ここにある物と違いが無いか確認してもらっていいですか?」


「えぇ、わかったわ」


 エミリアさんはそう言うと、会議室内にいるギルド職員2人に指示を出して素材を確認させた。


「確かに『伝弓』が盗まれたと訴えている魔物の素材と、種類も数も違いは無いわね……」


「ほら!言った通りだ! これでお前らは盗人確定だな!!」


 タンデムは自信に満ちた表情で俺達の事を見下している。

 俺はそれを無視してミゲルの方へ目を向けた。


「よし、それじゃあミゲル、この素材が全部入ったバッグを背負ってもらってもいいか?」


「……えっ?」


 ミゲルがポカンとした表情で俺の事を見つめてくる。


「ん?どうした? 昨日もコレを背負って森を歩いてたんだろ?」


「そ、そうだ……」


「じゃあ問題無く背負えるよな?この約180kgの荷物を」


「い、いや…」


 そう…。今ミゲルの目の前にあるバッグは、オークの肉を含め合計180kg近くもある魔物の素材が詰まった超重量の荷物なのだ。


 クリスの『収納魔法』のスキルレベルは現在14レベルだ。つまり140kg分の荷物を収納する事が出来る。

 それにプラスして、『収納魔法』に入らなかった分の荷物をファルとクリスでだいたい20kgずつ背負っていた。 これで合計約180kg。


 そして、俺は先ほどの会話で『バッグは1つだった事』と『それをミゲルが背負っていた事』について言質を取っている。


 ここで1つ賭けだった部分、それは『伝弓』のメンバー内に『重量魔法』所持者がいるかどうかって事だったのだが……

 コイツらのこの反応を見る限りそれも無さそうだ。


 ダントさんみたいに、荷物を軽く出来るとか言われていたら違う線で攻める必要があったのだ。面倒臭い事にならなくて良かった…


「何をしているの? 背負えば済む話でしょ?」


 なんかエミリアさんがイキイキし始めたぞ…


「ちょ、ちょっと待ってくれ! さっきの話は間違いだった!! バッグは1つじゃなかったんだ!5つのバッグだ!」


 タンデムはかなり焦りながら嘘を重ね続けていく。


「ほう… という事は、回収した素材を5つのバッグに分けて入れて、それをパーティの5人で背負って探索していたって事ですか?」


「そ、そうだ!」


「へー、いつもそのスタイルで依頼をこなしているんですか?」


「当たり前だ! ミゲル1人にそんな重い荷物を持たせるわけが無いだろ!!」


「そうなんですね。そんなに大量の荷物を5人で背負っていつも活動しているのなら、他の冒険者達にもその姿を普段から見られてるって訳ですよね?」


「なっ!?」


「冒険者達以外の依頼受付や買取受付にいるギルド職員にも、もちろん普段から5人で荷物を背負っているところは見られてるんですよね?」


「それは…… いや、えーっと…」


「私はいつも依頼受付に座っているけど、そんなあなた達は1度も見た事が無いわ。 いつも依頼完了の手続きの時は、ミゲルが背負っている荷物から討伐証明部位を出してるわよね?」


「………」


 エミリアさんによる最後の一撃で、『伝弓』の5人は下を向いて何も発さなくなってしまった。


「その反応で真相は全て判明したわね…」


 エミリアさんはそう言うと、会議室内にいるギルド職員2人に顎で合図を出した。


 ギルド職員は会議室から『伝弓』達を連れ出す為に、まずタンデムの腕を両サイドから2人で掴もうとした。

 その瞬間、


「なんでだっ! なんで俺がガキ共のせいでこんな目に合わなきゃいけねぇんだ!!」


 タンデムは掴まれそうになった腕を振り払って、俺たちに向かって襲い掛かってきた。


 俺は瞬時に『ソニック』を発動して、襲い掛かってくるタンデムの懐に潜り込んだ。

 そして、タンデムの体に触れながら、新しく『スタンガン』の強化版として開発した『ショック』という新魔法を発動する。


 バチンッ!!!


 『スタンガン』の5倍の魔力を消費して発動された電撃はタンデムの意識を刈り取り、痺れを通り越して失神させるという結果を引き起こした。


 タンデムは電撃のせいでピーンと気をつけの姿勢になった状態のまま、会議室の床へ顔から綺麗に倒れた…


 会議室内にいる全員が、失神してうつ伏せで倒れているタンデムを呆然と眺めている…


 ……えーっと、これはちょっとやり過ぎたかも!!

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