第39話 『頂上への道』


 翌朝。

 俺とファルは既に街の東にある門へ到着して、ジョークさんが来るのを待っていた。


 ちなみに、オードリーへの説明はクリスに任せている。

 少々面倒くさいかもしれないが、クリスなら上手くやってくれると信じよう・・・


 待つ事30分、昨日と同じように派手な格好をしたジョークさんが待ち合わせ場所へ現れた。


「ありゃ? もう来てたんかいな!早いなぁ〜」


「ジョークさんおはようございます。具体的な時間がわからなかったんで、一応早めに来ておいたんですよ」


「あー、それは悪い事したなぁ。それで?隣におる子はお仲間か?」


 ジョークさんの格好を見て呆然としているファルの肩を、ポンっと叩いて自己紹介を促す。


「ど、どうも、Eランク冒険者のファルと言います。今日はよろしくお願いします」


「はいはい、ファル君ね。そういえば君の名前はなんやったっけ? 昨日ギルド長さんが言うてた気もするんやけど、完全に忘れてもうてるわ。ごめんやで」


 あれ? 俺昨日ちゃんと自己紹介してなかったんだっけ?


「いや、大丈夫ですよ。では改めまして、Eランクパーティ『雷鳴』のリーダーをやっているリンクです。今日はよろしくお願いします」


「あーそやそや!リンク君ね。ってかその『雷鳴』ってパーティは君ら2人だけなん?」


「いや、ウチは4人パーティなんですけど、今日は色々考慮してこの2人で来る事にしました」


「ふーん、そうなんや。じゃあ他に誰も来うへんねやったらもう出発してええか?」


「はい、大丈夫です」


「ほんじゃあ早速出発しよかー」


 軽く自己紹介を済ませた俺達は、街を出て東の山へ出発する事となった。




 東の山までの道中は、ジョークさんの過去の失敗談などを聞かされながら歩いていた。

 中には勉強になる話もあったが、冗談混じりで話をされたので何処までが事実なのか判断が難しかった・・・


 山へ着くと、ジョークさんは休憩も入れず頂上へとガンガン進んでいく。

 俺とファルは一応周囲を警戒しながら、置いて行かれないように必死に後ろをついていく。


「そういえばジョークさんは武器を持ってるように見えないんですけど、魔法で戦うタイプなんですか?」


「武器?あー、武器は『収納魔法』に入れてあるから、戦闘になったらちゃんと出して戦うよ?」


「えっ、『収納魔法』を使うんですか・・・?」


「そうやでー。それにしても珍しい魔法スキルやのによう知ってんなぁ」


 ヤバッ・・・ クリスを連れて来た方が良かったかもしれない。

 もしかしたらなにか学べる事があったんじゃないか・・・?


「一応魔法スキルについては色々調べた事があるので・・・。 それにウチのメンバーにも『収納魔法』使いがいるんですよ」


「へー、それは奇遇やねぇ。『収納魔法』使える子は貴重やから、他のパーティに引き抜かれんように気ぃつけや〜」


「いやぁ・・・ 流石に引き抜かれる事は無いと思うんですけどね・・・」


 でも実際俺達はオードリーを引き抜いた経験があるから、絶対に無いとは言いきれねぇ・・・


「リンク、魔物が近づいてくる」


「おっ!ファル君はちゃんと気付けてるやんか。偉い偉い」


「種類と数わかるか?」


「・・・・おそらくバトルモンキーが1匹だな」


 ・・・という事は、もう既に山の中腹ぐらいまでは来てるって事か。


「わかった。ジョークさんどうしますか?無視して進むか、仕留めておくか」


「んー、そうやなぁ・・・ じゃあ君らで仕留めてもらえる?」


「・・・わかりました」


 俺達がどういう戦い方をするのか見たいのかな・・・

 あまり人に自分の能力は見せたく無いんだけど、せっかくAランク冒険者に見てもらえるなら手を抜くわけにもいかない。

 でも一応見られても能力がわかりづらいような戦い方にしとくか・・・


「リンクどうする?」


「1匹だけなら、とりあえずファルは投石の邪魔だけしてくれればいいよ」


「わかった」


「ほーら来たでぇ!」


 ジョークさんのその一言で、俺とファルは瞬時に戦闘体勢に入る。


 いつものように木の枝を伝って現れたバトルモンキーは、俺達を視界に入れてすぐ投石のモーションに入った。


 俺は即座に奴へ向かって一直線に駆け出し、後ろではファルが既に矢を放っている。


 バトルモンキーは眉間へ向かって飛んでくる矢を避けようとしたが、完璧には避けきれずにまぶたの上を切って片目を封じられた。


 惜しいなぁ・・・ でもファルはもうちょっとしたら、弓矢だけでバトルモンキーを仕留められるようになりそうだ。


 バトルモンキーが完全にファルへ気を取られているようなので、俺は駆けながら魔法を発動する。


『ソニック』


 発動した瞬間、駆けるスピードが一気に跳ね上がる。

 そのまま奴がいる木の下まで駆け寄り、周辺にある木の幹を蹴って、三角飛びの要領で奴の目の前まで跳び上がった。

 いきなり目の前に俺が現れた事で相当驚いているようだ。


 俺は隙だらけの首へ向かって剣を振り抜き、綺麗に頭を刎ね飛ばした。

 そして、俺はバトルモンキーの死体と共に地面へ着地すると『ソニック』を解除した。


 ふぅ・・・ もう『ソニック』を使えばバトルモンキーも敵じゃないか。

 でもこれ使ったら次の日が筋肉痛でしんどいんだよなぁ・・・


 新魔法『ソニック』を使った翌日は、強制的に運動能力を上げた反動で体中が筋肉痛になる。

 検証の翌日に発覚した残念な事実だ・・・


 俺はバトルモンキーの死体から素材の回収を済ませて、ジョークさんの元まで戻った。


「君やるやん! 想像以上やったわ!」


 おぉ・・・!

 この表情は本気で褒めてくれてる気がするな。


「Aランク冒険者の方にそう言って貰えるのは光栄ですね」


「僕はそんな大したもんやないよ。それにしても、急に動きが良くなったんは魔法か?」


「・・・・やっぱ気付きますよね」


 この世界には、体が脳からの電気信号で動いてるという事を知ってる人間がまずいない。

 何故なら『回復魔法』やポーションがあるせいで、解剖学や医学の発展が遅れているから。


 それでも、何かしらの魔法を発動したって事はバレてるんだな・・・


「そりゃわかるよー。運動能力を向上させる技術は色んな魔法スキルで再現されてる事やからね。でもEランクの君がそれを出来るとは思わんかったなぁ・・・」


「そうなんですか・・・ まぁ自分は色々試してみて偶然出来るようになっただけですけどね」


 そうか・・・ やっぱ他の魔法スキルでも同じような事は出来るんだな・・・

 まぁ、運動能力を向上させるのは誰でも考えるようなことか。


「・・・リンク」


「ん? どうしたファル?」


 なんかファルが思い詰めた様な顔をしてるんだけど・・・


「また今度魔法について相談に乗ってもらってもいいか・・・?」


「あ、あぁ。全然構わないけど」


 もしかしてだけど、俺の新魔法を見て焦ってるのか・・・?

 確かに、『ソニック』は開発してからまだ仲間の前では使って無かったからな。

 それにしても流石の向上心・・・


「そろそろ休憩は終わりやでー。さっさと進むよ」


「「了解」」




 俺達は順調に山の中を進んでいった。

 時々バトルモンキーが現れる事もあったが、俺とファルは2人だけでも難なく仕留めていく事が出来た。

 そして、しばらく歩き続けていると、急に周囲の雰囲気が変わるのを俺は感じとった。


 どうやら、いよいよ頂上付近が近づいてきたみたいだな・・・

 流石のジョークさんでも周りを警戒しながら進んでいる・・・


「そろそろ止まろか」


「っ!何処ですか・・・!?」


 いよいよか・・・!

 何処から来る!? 俺達はすぐに離れないと!


「ちゃうちゃう。ドラゴンがおるのはまだ先や」


「えっ・・・? じゃあ何故こんな所で?」


「君らはここで待機や。こっから先に進んだら戦闘に巻き込まれる可能性があるからね」


「そういう事でしたか・・・ わかりました」


 そうか、俺達はここまでか・・・

 俺達が安全な範囲にいないと、ジョークさんの邪魔になるからな。

 でもここからじゃ戦闘が見えるのか心配だ・・・


「ほな、行ってくるから大人しくしてるんやで?」


「はい・・・ ご武運を」


「ご武運・・・? ふっ、ふははっ!ご武運て君!堅苦し過ぎるわ!」


「・・・・・」


 ・・・なんか腹立つな。

 そんなに笑わなくてもいいだろうよ!


 ジョークさんはそのまま笑いながら、1人で頂上の方へと歩いて行った。


 すげぇ余裕そうだけど、本当に大丈夫なのか・・・?

 駄目だ。ジョークさんがあんな化け物を倒せるイメージが全然湧かない!!


 ・・・・・ってかちょっと待て。


 そういえばジョークさんの魔法スキルって・・・


 いやいや!『収納魔法』じゃねぇか!!


 あの人どうやってドラゴンと戦う気なんだ・・・!?

 というか、まずそもそもどうやってAランク冒険者になったんだ!?


 俺は衝撃の事実に気付いて、まともな精神状態じゃ無くなってしまっていた・・・

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