第38話 『Aランク』


 俺はドラゴンを退治しに来たという男をギルド前まで案内してきたが、そのままその場に留まってその男から話を聞いている。


「じゃああなたが王都から派遣されたっていうAランク冒険者・・・?」


「あれ? なんで君がその事知ってんねや?」


 やっぱり・・・!

 そりゃ強そうに見える訳だわ!


「ギルド長から話を聞いてたんで」


「へー、君ここのギルド長に顔効くんかいな。 ならついでにギルド長がおるとこまで案内してぇや」


「ええ・・・ わかりました」


 これはラッキーだな・・・

 こんな間近でAランク冒険者を見れる事なんてそうそう無い。

 何か有益な情報をゲット出来ればいいんだけど・・・


 俺はクセつよ男を後ろへ連れて、依頼受付に座っているエミリアさんに声を掛ける。


「すいませんエミリアさん」


「あら、リンクじゃない。さっき来たばっかでしょ? どうしたの?」


「・・・例の助っ人の方が着いたみたいです」


「えっ!? (ちょっと!まさかあなたの後ろいる男がそうなの!?)」


 エミリアさんは俺の服を掴んで自分の方へと引き寄せると、声を抑えながら俺の耳元で困惑を伝えてきた。


「(ええ、本人はそう言ってますけど・・・)」


「(嘘でしょ・・・!? こんなぶっ飛んだ服装の奴が助っ人なの!?)」


 ・・・・ひどい言いようだな!


 でも少し安心した・・・

 この世界の人から見てもあの服装はぶっ飛んで見えるんだな。

 身近にオードリーという魔女っ子がいたせいで、この紅白アニマル男の服装もこの世界ではおかしくないのかもって思いかけてた・・・

 よし、俺の感性は正常のようだ!!


「ちょっと君ぃ! いつまで受付のお姉ちゃんとイチャイチャしてんねんな!」


「(どうします?)」


「(とりあえずギルド長室まで連れてきて)」


 俺はエミリアさんに頷いて返事をすると、派手男の方へと振り返った。


「待たせてしまってすいません。ギルド長室まで案内しますね」


「頼むでほんま・・・」




 俺はお祭り服男を3階のギルド長室まで連れて来て、一緒に部屋の中で数分間待っている。

 すると、遅れてエミリアさんもギルド長室へ入ってきた。


「あれ? なんで受付のお姉ちゃんが入ってきてんねんな?」


「えーっと、紹介しますね。 この人がここのギルド長のエミリアさんです」


「・・・はぁ!? ほなギルド長が受付に座ってたって事かいな!えらいけったいなギルドやなぁ・・・」


 ・・・・・確かに!!!

 よく考えたらウチのギルド長も趣味で受付に座ってるような変人だった・・・!!


「おかしくて悪かったわね!その子が紹介した通り私がここのギルド長よ」


「・・・まぁええか。僕はAランク冒険者の『ジョーク・デリンジャー』いいます。今回は王都の冒険者ギルドから派遣されてこの街へ来ました」


 ジョークさんって言うのか。

 名は体を表すを見事に体現されている人だな・・・


「ジョーク・デリンジャー・・・ 確かに王都からの手紙に書かれていた名前で間違い無いわね。でもまさかこんな男だったとは・・・」


「ん? なんか言いました?」


「いえ!ただの独り言だから気にしないでちょうだい」


 聞こえてる聞こえてる。俺に。


「そんな事より王都のギルドから聞いた話では、どうやらドラゴンが出たみたいやないですか」


「ええ、そうなのよ・・・ この街の東にある山でドラゴンが見つかったわ。ちなみにそこにいるリンクが第一発見者ね」


「ほう・・・ 君が発見者か。なるほど、だから僕の事をギルド長から聞いてたんやね」


「ええ、そういう事です。第一発見者って言っても、山の頂上へ飛んでいく姿を見ただけなんですけどね」


「見た目はどんなドラゴンやった?」


「えー、たしか体長20m以上で、全身茶色の鱗に覆われてましたかね」


 対峙した訳じゃないから、そんな事ぐらいしかわからなかった・・・


「ほうほう。それなら比較的楽な仕事になりそうやな」


「楽、ですか・・・?」


「君の情報通りやとすると、まだ属性竜に進化してないみたいやからねぇ」


「属性竜・・・?」


 聞いた事が無い単語だな。


「属性竜って言うのはノーマルの『ドラゴン』から、特定の環境へ適応進化した種の事よ。岩山などで適応進化したら『土石竜』へ、火山地帯などで適応進化したら『火炎竜』へ、って感じにね。進化してしまったら一気に強さが跳ね上がる事になるわ」


「・・・なるほど」


 という事は今回俺達が発見したドラゴンは、進化前でまだ弱い部類に入るやつって事なのか。


 ・・・・・えっ? アレで?


「茶色の鱗は『土石竜』の特徴でもあるんやけど、君が空飛んでたって言うんならそれは間違いなくノーマルの『ドラゴン』や。『土石竜』は飛ぶ事が出来ひんからね」


「なるほど、そういうので判断が出来るんですね。勉強になります」


「一応僕Aランクやからねぇ。そういう知識は豊富なんよ」


「なら、ついでに少し気になった事を聞きたいんですけど、進化前の『ドラゴン』は弱い部類に入るって言ってましたけど、つまりAランクじゃないって事ですか・・・?」


「いいえ、進化前のドラゴンも間違いなくAランクよ。ただAランクの中では弱い部類に入るってだけなの。属性竜になるとAランクの中でも最強の部類になるけどね」


「なるほど・・・」


 俺はジョークさんへ質問したのだが、何故かエミリアさんが答えてくれた。


「一部の属性竜はSランクに入ってる奴もおるからねぇ」


「え、Sランク・・・!」


 そんな化け物達がいて、よくこの世界壊れずに済んでるな!!

 ・・・でも目の前にいるこのジョークさんは、そのレベルに足を踏み込んでるって事なんだよな・・・?

 ハンパねぇ・・・


「それより話を元に戻すけど、ドラゴンの件はあなたに任せて大丈夫なのよね?」


「ええ、全然大丈夫ですよ。明日にでも僕が退治してきますんで、ギルド長さんは報酬だけ用意しとってもろたらええです」


「・・・わかったわ。じゃあ明日は頼むわね」


「あのぉ・・・」


 やべっ! 声出しちまった・・・!

 ・・・・でも抑えられそうに無いんだよなこの気持ち。

 こんなチャンス2度と無いかもしれねぇ。


「なんや? そんな糞漏らしそうな顔して」


「あの、邪魔にならないようにするんで、僕達もドラゴン退治へ着いて行っていいですかね・・・?」


「っ!! ちょっと! あなた何言ってるの!?」


 そりゃギルド長の立場からしたらこんな事許せる訳ないよな・・・

 でも俺は・・・


「Aランク冒険者の戦いを見れる可能性があるんなら見てみたいんですよ!! だってこんなチャンスもう二度と無いかもしれないんだし!」


「でもだからって危険過ぎるでしょ!!」


「お願いしますエミリアさん!」


「僕は別にかまわんよー。邪魔は絶対せぇへんねやろ?」


「ちょっと!!」


「は、はい!邪魔になりそうになったら切り捨ててもらっても構わないです!」


 目指すべきレベルの戦いを見れるチャンスなんだ。

 何か学べる事があるかもしれない・・・!


「ええねぇ・・・ その無鉄砲さに免じてお兄さんが連れてってあげるわ! でもドラゴンと戦う時は遠くに離れとくんやで?」


「もちろんわかってます!」


「なんかこれじゃあ私が頑固みたいじゃないのよ・・・ わかったわ、あなた達の好きにしなさい。その代わり何かあっても私知らないからね!?」


「はい!ありがとうございますエミリアさん」


「それじゃあ明日の朝、街の東門で待ち合わせでええかな?」


「大丈夫です。明日はよろしくお願いします」


「はいはーい」


 俺はエミリアさんにもう一度頭を下げて謝罪すると、2人を残して一足先にギルド長室を出た。


 そのまま家へと帰った俺は、夕食を済ませてファルとクリスに事情を説明した。

 2人も話を聞いて流石に引いていたが、最終的にはリーダーの判断という事で納得をしてくれた。


 問題はオードリーだな・・・

 明日の朝急にドラゴン退治を見に行くなんて言ったら絶対パニックになる。

 それに、人数が多すぎてもジョークさんの邪魔になるかもしれないし・・・


「・・・クリス、悪いんだけど明日はオードリーに付き添って、南の川で依頼をこなしてもらっててもいいか?」


「・・・・全然構わないよ。ドラゴン退治なんて、見てても恐怖でまともに鑑賞出来る気がしないしね。それに、もう1回あんな化け物を見たら普通に失神しちゃうような気がする・・・」


「そうか・・・ ありがとうな」


 ・・・冗談ではぐらかしてはいるけど、多分クリスも見たいんだろうな。

 でも、邪魔にならないようにするには索敵能力の高いファルがいてくれた方が助かる・・・


 クリスには悪いけど今回は我慢してもらうしかない。 いずれクリスには本物のドラゴンと対峙するチャンスを作ってやるからな・・・


「ヒ、ヒィッ・・・!!」


「クリスどうした!?」


「いや、なんか凄い悪寒がして・・・」


「おいおい、風邪ひいたりなんかするなよ?」


「うん・・・ わかってる・・・」




 俺達は明日に備えて早めに寝る為、早々に話を切り上げて自室へ戻る事にした。

 だが、俺は恐怖と期待でなかなか寝付く事が出来なかったのだった・・・

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