第37話 『来訪』


 翌日。

 まだ少しだけ酒が残っている体を無理に起こして、なんとか朝食を食べる事が出来た。

 酒を飲まなかったエマ以外のファルとクリスも顔色が悪い。


 昨日オードリーさんが正式に『雷鳴』に加入する事が決定したので、今日オードリーさんは『氷槍』のメンバーとパーティ離脱について話し合いをする事になっている。

 よって、俺達3人は丸1日休日になった。 休日と言っても3人共自己鍛錬を休むことは無いのだが。




 朝食を食べ終えた俺は、東の山の近況を聞く為に1人でギルドへ来ていた。


 依頼受付に座るエミリアさんに声を掛けると、ギルド長室へ移動して話を聞く事となった。


「東の山の件どうなりました?」


「なんとか王都から助っ人が派遣してもらえそうよ。既にAランク冒険者がこの街へ向かって来ていると思うわ」


「それは良かった・・・」


 って事は騎士団が動かなくて済むんだな。

 父さんなら、下手したらなんとかなるのかもしれないけど、リスクを負わなくて済んだのはありがたい・・・


「そういえば、あなた達はDランクに上がる準備は出来てるの?」


「ん? 準備ですか?」


「そんな呑気で大丈夫なのかしら・・・ 今までは冒険者登録からそんなに時間が経ってなかったから注目される事は無かったけど、その歳でDランクに上がっちゃったら嫌でも目立つ事になるわよ?」


「あっ・・・ 確かにそうですね。元々Dランクへ上がる頃にはこの街を出るつもりでいたんですけど、自分達の想定よりもランクアップが早過ぎて、まだ今後の予定が決まってないんですよね・・・・・」


「んーなるほどねぇ」


「それに、近々新メンバーが入るんですけど、その人だけEランクになっちゃうのもどうするかって問題があって・・・」


 オードリーさんは俺達より1年長く冒険者をやってるから、Dランクに上がるまでそんなに時間は掛からないとは思うんだけどな。


「あら! 新メンバーが入ることになったの?それはめでたいわね!」


「ええ、ありがとうございます。なのでそういう諸々の事情もあって、準備をするにしてもどう準備すればいいかわからないって感じなんですよ」


「そうねぇ・・・ その新メンバーがランクアップするまで職員にあなた達の事黙っとくように言っても、人の口に戸は立てられないしねぇ・・・」


 だよなぁ・・・ クラン勧誘も面倒だけど、1番厄介なのは嫉妬によるやっかみか・・・


 いっその事オードリーさんは他の街でランクアップしてもらう事にするか?

 そもそも俺達の事を知ってる人がいない所へ行けば、年齢もわからないし同期の顔見知りもいないから噂も広がらない。


 となると問題はリリーだよな・・・

 リリーが学塾に通い始めるまでは、この街にいるつもりで話してたからなぁ・・・


「とりあえず街を出る方向で仲間と話してみる事にします」


「そう、わかったわ。それじゃあその方針へ向けて準備しときなさいね」


「はい。アドバイスありがとうございました」


「いーえ。それもギルド長の努めよ」


 そういえば冒険者登録した日にも助言されたような気がするな・・・


 俺はもう一度エミリアさんへ挨拶をしてギルド長室を出た。

 そのままギルド内の資料室へ行き、色々必要な事について調べて、その日の夜にはオードリーさん以外のメンバーに俺の考えを伝えた。


 ファルとクリスは賛同してくれたが、エマは終始悩んでいるような顔をしながら俺の話を聞いていた。

 俺達の旅に着いてくるか、この街に残るかはエマ次第だ。

 ちゃんと考えて答えを出してくれればいい。




 翌朝。

 俺達は今日からオードリーさんのランクを少しでも早く上げる為、南の川で毎日依頼をこなす事にした。


 でも、それに付き合ってしまうと俺達のランクアップも早まってしまうので、俺達3人のうち1人がオードリーさんと一緒に依頼をこなし、他の2人は北の森で特訓するという方法をとる事にした。

 オードリーさんに付いて依頼をこなす役割は1日交代の当番制となる。


 そして初日の当番は俺。

 なので今はオードリーさんと2人で南の川へと向かっている最中だ。


「それでどうでした?昨日の話し合い」


「事情を説明したらちゃんと納得してくれたわ。はじめは凄く引き止められたけどね・・・」


 そりゃ・・・ パーティの主力だしな・・・

 アイザックさん達から見たら最悪の引き抜きだと思う。


「『氷槍』のみなさんに恨まれるでしょうね・・・」


「大丈夫よ。あの3人はそんな器の小さい人間じゃないわ」


「それなら良いんですけどね」


「・・・・・ねぇ」


「なんですか?」


「もう『雷鳴』に入る事は正式に決まったんだし、私に敬語使うのやめてくれないかな・・・?」


「えっ・・・と、いいんですか?」


「私が敬語嫌って言ってるの! 対等な仲間でありたいのよ・・・」


「・・・・わか、った。オードリーがいいならこれからは対等に話す事にするよ」


 一応年齢的には1つ上だったから敬語を使ってたけど、使わなくて済むならそっちの方が楽で助かる。


「ええ。それでお願い」


 その後、南の川まで辿り着いた俺達は順調に魔物を狩っていった。




 昼休憩時、俺は狩りをしてて疑問に思っていた事をオードリーに聞いてみた。


「ってかオードリーさぁ、そんなに魔法使ってて疲れないのか?」


「あー、その事ね・・・ 私実は特殊なスキルを持ってるから人より魔法を使っても疲れないの」


 そう言って、オードリーはプレートを取り出して俺へ見せてくる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

氏名 [オードリー・ゴールド] 年齢 [16歳]


所属国 [ブランデン王国] 職業 [冒険者]


スキル

[氷魔法Lv.19] [魔法力Lv.16] [杖術Lv.6]

[視野Lv.13] [製薬Lv.11] [解体Lv.7]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うぉっ!『氷魔法』のレベル高っ!!


 じゃなくて・・・ コレか。

 オードリーが言ってる特殊なスキルっていうのは『魔法力』の事だろうな。

 初めて見る名前のスキルだ・・・ 領主邸にある本でも見た事が無い。


「その『魔法力』ってスキルのおかげだと思う。多分人よりも疲れにくいだけじゃなくて、魔法の威力も強くなってるんじゃないかしら?」


「へー、それは凄いスキルだ・・・」


 本当にとんでもないスキルだぞコレ・・・

 多分だけど魔力量が上がってるってだけじゃ無くて、魔法を使う時の魔力効率も上がってるって事じゃないのか・・・?


「私ね、小さい頃から物語に出てくる魔法使いに憧れていたから、祝福でこのスキルを与えられた時は本当に運命だと思ったの。 実際に魔法を使ってみてスキルの能力を理解出来た時は神に感謝したわ!」


 神、ねぇ・・・

 オードリーにこのスキルが与えられたのは偶然だと思う。求めているスキルが与えられる事なんてほとんど無いからな。

 求めているスキルが与えられるなら、クリスが与えられた魔法スキルは『収納魔法』じゃなかったはずだし。


「とりあえず、何故オードリーが魔女みたいな格好をしてるのかは理解出来たよ」


「それはっ・・・! 私の理想の魔法使い像がこの格好なのよ! 改めて言わないで恥ずかしいから!」


「ハハッ、ごめんごめん。それにしてもこの『視野』っていうのはどういうスキルはなんだ?」


「それも祝福で与えられたスキルで、文字通り視野が広くなるだけのスキルね。『氷槍』ではそれを活かして後方からの指示出しとかもしてたわ」


 なるほど、本当に文字通りのスキルだな。

 他のスキルも生活する上で勝手に手に入ったって感じか。

 となるとオードリーにもアレをやってもらう事になるな。


「説明ありがとな。とりあえず俺のプレートも見てもらっていいか?」


 ポケットからプレートを取り出してオードリーに見せる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [15歳]


所属国 [ブランデン王国] 職業 [冒険者]


スキル

[雷魔法Lv.13] [短剣術Lv.13] [剣術Lv.20]

[体術Lv.9] [回避Lv.5] [軽業Lv.5]

[体幹Lv.1] [能力把握Lv.10] [解体Lv.10]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・・えっ!? なんかスキルの数多くない!?」


「まぁ同年代の中では多い方だと思うよ」


 クリスがいなきゃ情報を集める事が出来なかったから、ある意味ズルみたいなもんなんだけど・・・


「これがあなた達の強さの秘密なの・・・?」


「いや、秘密って訳でもないかな・・・ とりあえず、オードリーにもこれぐらいスキルを増やしてもらう予定になるけど、大丈夫?」


「やる!! やるわよ! だから方法を教えて!!」


「わ、わかったから落ち着いてくれ! とりあえず説明するから! まず・・・・・


 俺はオードリーにクリスの家の事から、領主邸での情報集めの事、そして現在取得方法が判明しているスキルについて説明していく。


「ま、まさかクリスが領主様の息子だったなんて・・・!!」


 そこにはどうしても引っかかるよな・・・

 こんな身近に貴族家の人間がいるなんて普通は思わないし。


「そういう事だけど普通に接してやってくれよ? アイツそこら辺の事結構気にするから」


「わかったわ・・・ 一応」


「頼むな。そんな事より取得方法が判明してるスキルについては、今日の帰りに家へ寄ってくれればメモ渡すから。そこからは自分でじっくり選んで取得に励んでくれ」


「ええ。私はこれでさらに強くなれるのね・・・!」


「あ、あぁ・・・」


 目標へのモチベーションが異常に高いなオードリーは・・・

 いつかガス欠にならないか心配だぞ。


 俺達は昼休憩を済ませて狩りを再開したのだったが、午後の狩りはハイペースで行なう事になってしまった。

 主にオードリーのテンションが高過ぎたのが原因だったけど・・・




 夕方になって街へ戻ると、まずギルドで依頼達成の報告をして、その後家へ寄ったオードリーに約束のメモを渡した。

 メモを受け取ったオードリーは、これからデートへ出掛けるのかというようなルンルン気分で自分の家へと帰っていく。


「大丈夫かアイツ・・・」


 俺が帰っていくオードリーの後ろ姿を心配しながら眺めていると、視界の外から誰かに声を掛けられた。


「ちょっとそこの君ぃ! 聞きたいことあるんやけど!」


 声がした方へ振り返ると、赤やら白やら動物柄をふんだんにあしらった派手なデザインの服を着た男と目が合った。


「・・・えっ? 俺?」


「そう!君や! ちょっと冒険者ギルドまで案内してくれへんかな?」


 ・・・・・ヤバい!

 なんか今現在進行形で変な人に絡まれてるような気がする・・・!

 服装だけでもクセが強いのに、その上もの凄い訛ってる!!

 顔は一応整ってるけど、ド級にキャラが濃い・・・!


「えー、案内ぐらいなら全然大丈夫ですけど・・・」


「ほんま!? なら早速頼むわ! さっきこの街に着いたんやけど、全然道わからんくて困っててん」


 なるほど・・・ 街の外の人なのか。

 訛りは他の地域の人だからか・・・?


「わかりました・・・ じゃあ着いてきてください」


 俺は街でオススメの食堂や飲み屋などを聞かれながら、それに答えつつ謎の男をギルドまで案内する。


 ・・・最初は凄い訛りと派手な格好に誤魔化されてて気付かなかったけど、もしかしてこの人めちゃくちゃ強いんじゃねぇか・・・?

 歩いてても体の軸が全くブレないし、隙なんて毛程も見えない・・・

 なんだよこの人! 怖ぇ!!


「つ、着きました。ここが冒険者ギルドです」


「おー、ここか! ありがとう、ほんま助かったわ! 案内はここまでで大丈夫やからもう帰ってええよ」


 この人は結局この街へ何しに来たんだ・・・?


「あの!」


「なんや?どうした?」


「この街へはなんの用事で来たんですか・・・?」


「用事ぃ? 仕事や仕事!大きいトカゲさんを退治するっていうな」


 大きいトカゲ・・・?

 もしかしてドラゴンの事か!?


 って事はこの人・・・!

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