第34話 『サプライズ』
目の前にいる受付嬢、
いや、ギルド長のエミリアさんが、俺達にドラゴン並みの衝撃を与えてきた・・・
見習い時代から受付でお世話になっていた、年齢はおそらく30歳ぐらい、茶髪でショートカットが特徴的な親しみやすい顔をしたお姉さん。
その受付のお姉さんがまさかまさかのギルド長・・・
なんで知らなかったんだ俺は・・・?
「エミリアさんがギルド長だって事みんな知ってるんですかね・・・?」
「さぁどうかしら・・・ 少なくともCランク以上の冒険者はみんな知ってると思うわよ? あなた達はダント達と仲が良かったみたいだから聞かされてると思ってたんだけど」
「ダントさん達知ってたのかよ・・・ もしかしてクリスは聞いてたのか?」
「・・・いや、僕も今初めて知って凄い驚いてる」
「クリスも聞かされて無かったのか・・・」
俺達は今まで冒険者の先輩達とほとんど絡んでこなかったからなぁ・・・
唯一親しくしてたのがダントさん達『剣刃』だったけど、そんな話は全く教えて貰ってないし。
「っていうか、そもそもなんで受付にいたんですか?」
「まぁ趣味が1番の理由だけど、冒険者達と直に触れ合う事でわかる事もあるのよ」
「なるほど・・・」
いや・・・ どういう趣味してんだよ。
普通のテンションで流れる様に言ってたけどこの人。
「というかいつまでそこで突っ立ってるのよ。さっさとこっちへ来て報告してちょうだい」
「あっ、はい!」
俺はエミリアさんの前に立って、現場で見た事を事細かく説明していく。
「まさか北の山にドラゴンが出るなんて・・・」
「今まで1度も無かったですか?」
「無いわね。少なくとも私が知ってる限りでは」
となると、やっぱり相当特殊な事が起こってるんだな・・・
「緊急依頼はどうなります?」
「そりゃもちろん中止よ。しばらく東の山へ近づく事も禁止になると思うわ」
「じゃあドラゴンはどうするんです?」
「そうねぇ・・・ この街の冒険者の最高ランクはBランクだから、各支部の冒険者ギルドに連絡してAランクかSランク冒険者を派遣してもらうしか無いわね・・・」
「・・・それは時間が掛かりそうですね」
「仕方ないわ。あと、領主様にも報告しないと・・・ もしかしたら騎士団も動く事になるかもしれないわ」
これは本当に大ごとになってきたな。
領主と騎士団が動くって事は、俺の父さんとクリスの父親も動くって事だ。
「じゃあしばらく俺達は完全に蚊帳の外ですか・・・」
「悪いけどそういう事になるわ。でもあなた達が持ってきてくれた情報はとても価値のあるものだった。ギルドを代表して礼を言わせてちょうだい」
「いえ、俺達はやれる事をしただけなんで」
「それでもありがたいのよ。そうだ!ついでに緊急依頼の達成報酬を精算しちゃいましょう」
「あっ・・・!完全にその事忘れてました!」
クリスの『収納魔法』から3日分ぐらいの討伐証明を出してエミリアさんに見せたが、またもその数に驚かれる事になった。
しっかりと報酬を払ってもらったので礼を言ってギルド長室を出ようとすると、俺達はエミリアさんに呼び止められた。
「あっそうだ。あなた達そろそろDランクに上がると思うわよ?」
「・・・えっ!?」
最後の最後にもエミリアさんからとんでもない爆弾が放り込まれた。
俺達はその爆弾のせいでソワソワしながらギルド長室をあとにした。
ギルドから寄り道もせずに家へ帰ると、俺達はエマにちゃんとした料理を食わせてもらって、その後は各々自室へ戻って翌朝まで爆睡する事となった。
翌朝。
いつもより遅い時間に目が覚めた俺は、日課もこなさずに部屋で今後のことを考えていた。
昨日のドラゴンを見て改めて痛感させられたな・・・ 俺達はまだまだ弱い。
このまま同じ事を繰り返しやってても、アレを倒せるようになるのは遥か遠くだ。
何か強くなれる方法を新しく見つけないと・・・
まずは武器を良い物に変えていかないと駄目だな。
最近鋼の短剣を使い始めて感じたけど、明らかに他の鉄の剣や両手剣なんかより性能が良い。
高級品ならもっと良い鉱石を使った武器もあったりするけど、Dランク冒険者になるなら最低でも鋼製の武器に変えていかないとな・・・
あと、魔法もなんとかしていかないといけない。
正直俺が今使ってる魔法は弱い・・・
もっと色々考えて、使える魔法を開発していかないと駄目だ。
現段階で俺が開発した『雷魔法』は、『スタンガン』と『ライトニング』の2つで、接触型と遠距離型のただ相手を電撃で麻痺させるだけの魔法。
今までは攻撃役として剣の方にばかり力を注いできたけど、もうワンランク上に行くとなると魔法も鍛えていく必要がある。
『雷魔法』か・・・ いったいどんな事が出来るようになるだろうか・・・?
「みんなー!朝ご飯出来たよー!」
考え事に集中していると1階からエマが俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺は考え事を一時中断して、朝食を食べるために1階へと降りていった。
俺達は朝食を食べ終えると、食卓に残って話をしている。
「じゃあ今日は休みなのか?」
「あぁそうだ。今後の事を少し考えようと思ってな。 正直Dランクに上がれるのはもっと先の事だと思ってたから、色々俺の中の予定が狂ってきてるんだよ」
「確かに思ってたより早かったね・・・」
「あぁ。 だからもう1度このタイミングで先の事を色々考え直す必要があると思ってる」
「なるほどな」
「方針はリーダーに任せるよ」
「お前達もちょっとは考えろよ!?」
話し合いを終えて自室に戻った俺は、ベッドに寝転がりながら再び『雷魔法』について考えていた。
すると、部屋の扉からノックの音が響いた。
俺がベッドを降りて扉を開けると、部屋の前にはエマが立っていた。
「リンク、ちょっと話があるんだけど」
「ん?どうした?」
「えーっとね、私が昔からお世話になってる薬師のおばあちゃんいるでしょ?」
「あぁ、最近腰を悪くしてるって言ってたおばあちゃんだろ?」
「そうそう! それでね、そのおばあちゃんにはお孫さんがいるんだけど、その人がリンク達に会って話がしたいって言ってるの。良かったら会ってもらえないかな・・・?」
「・・・それは別に構わないけど、いつ会えばいいんだ?」
「あのね・・・ 実はね・・・ その人もう家の前まで来てるんだ・・・」
「はぁっ!? もう家の前まで来てる!?」
「そうなの・・・ ダメかな?」
「・・・・・わかったわかった。会ってみるからそんな顔しないでくれ・・・ でも俺だけに会いに来たんじゃなくて、俺達に会いに来たんだろ? それならファルとクリスにも声を掛けないといけないぞ?」
「聞こえてるよ・・・。僕に聞こえてるならファルにも聞こえてるでしょ?」
声がした方へ目を向けると、クリスが自室の扉の隙間から顔を出してこちらを見ていた。
「あぁ、聞こえてる。それで?ウチのリビングに招いて話をするのか?」
クリスの声に反応してファルも部屋から出てきた。
「そうだなぁ・・・ そのお孫さん1人だけならウチのリビングで大丈夫だろ。 エマ、お茶の用意をお願いしてもいいか?」
「大丈夫!もう用意出来てるから!!」
「・・・・・お前最初からなんとしてでも会わせる気だったな?」
俺がそう言うと、エマは苦笑いを浮かべながら1階へ逃げていった。
俺達は部屋で外用の服に着替えると、1階へ降りていき客を迎える為の準備を済ませた。
エマは外へお客さんを呼びに行き、しばらくするとその客を後ろに連れ添って戻ってきた。
俺は挨拶しようと、連れられて入ってきたお客さんに目を向けたのだが、なんとそのお客さんは俺達に見覚えのある人物だった。
「あれ!? オードリーさん!?」
「どうも『雷鳴』のみなさん。お邪魔するわ」
エマが連れてきた人物は、まさかの魔女っ子オードリー。
最近東の山で会ったEランクパーティ『氷槍』に所属している『氷魔法』使いである。
まぁ俺達の縁はそれだけでは無いのだが・・・
「えっ! リンク達とオードリーさんは知り合いだったの!?」
「まぁ・・・ 同じ冒険者だからな」
「あっ、そういえばエマには知り合いって伝えて無かったわね。ごめんなさい」
「いえいえ!忘れてたなら仕方ないですよ!」
・・・・・この人何しに来たんだ?
わざわざエマに頼んでまで俺達へ会いに来るってどういうつもりなんだ?
「俺達に何か用があったみたいですけど、どうかしましたか?」
「・・・そうね。まずあなた達にはお礼を言わないといけないと思って」
「お礼・・・?」
「何ヶ月か前、私達がオークと戦っていた時に助けてくれたでしょ? あの時は本当に助かった。ありがとう」
オードリーさんはそう言うと、俺達へ向かって深々と頭を下げた。
「・・・気付かれてましたか。とりあえず頭を上げてください」
「わかったわ。気付いたのは東の山で会った時よ。盾のあなたにだけは見覚えがあったの」
「えっ? 僕・・・?」
なるほど、そういう事か・・・
だからあの時クリスの事をチラチラ見てたんだな。
「そういう事でしたか。他のパーティの方達は?」
「パーティメンバーには話して無いわ。助けたのにすぐ逃げたって事は、色々面倒だったんだろうなと思ったから」
「まぁ、そうですね・・・」
「わかるわ・・・ 確かに面倒臭い冒険者もたくさんいるからね。 でも、私は助けてくれたのがあなた達だったって事に気付いてしまったから、礼を言わないと気が済まなかったのよ」
律儀な人だ・・・
まぁでも、これで俺達へ会いにきた理由は理解出来たな。
「そういう事だったんですか。わざわざ礼を言う為に会いに来てくれたとは」
「それは1つ目の理由だけどね」
「ん? 1つ目?」
「そう。実はもう1つ話したい事があるのよ」
「えーっと、なんでしょう?」
「『雷鳴』ってパーティメンバー募集してるのかしら?」
「なんでそんな事を・・・・・えっ?」
「募集してるなら私を『雷鳴』に入れてくれないかしら?」
・・・・・えっ???
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