第35話 『オードリー』
「ちょ、ちょっと待ってくれオードリーさん! あなた『
「ええ・・・今は『氷槍』に所属してるわ。でもあなた達の仲間になれるのならちゃんと辞めるつもりよ」
いやいや、なんで急にそういう事になる!?
俺達は前から一方的に知ってたが、オードリーさんが俺達の事を知ったのはここ最近だろ・・・?
「・・・・そうなった理由が全くわからないんで、まずは説明からしてもらってもいいですか?」
「わかった。それならまずは、私が『氷槍』から抜けようと思っている理由から話すわね?」
「・・・お願いします」
「先に言っておくけど、別に私達のパーティが仲悪くなったって訳では無いわ。ただ、私と他の3人では冒険者として活動していく上での目的意識が全く違うの」
「目的意識・・・ですか」
「そう。私以外の3人が冒険者をしている理由はただ1つ、シンプルに生活の為。 それはリーダーのアイザックと剣使いのナルとリグビーが、共に貧しい環境で育ったという事が原因となっているわ」
という事は、そもそもオードリーさんは初期からの仲間だった訳じゃ無くて、後から他の3人と親しくなったって事か・・・
「なら、何故『氷槍』に?」
「実はたまたまなのよ。私が冒険者として1人で活動を始めた時、受付のお姉さんにたまたま紹介されたのがあの3人だったの・・・ 私も元々1人で冒険者をやっていくつもりは無かったからありがたい話だったわ」
受付のお姉さん・・・ 多分エミリアさんの事だよな?
あの人そういう仲介役みたいな事もやってたのか。流石ギルド長だな・・・
「『氷槍』に入った理由はわかりました。それじゃあ話は戻って、他の方達とは違うオードリーさんの目的って言うのはなんですか?」
「・・・・私の目的は物語に出てくる様な偉大な魔法使いになる事。強大な魔法を操って、自由に世界を旅する・・・ そんな魔法使いに私はなりたいの」
・・・・・スゲェ良い夢じゃねぇか。
俺も物語を読んで冒険者に憧れた様な奴だから、めちゃくちゃ気持ちはわかる!
でもそうか・・・ 確かにそうなると、生活の為だけに活動している他のメンバーと一緒に冒険者を続けていくのは難しいだろうな・・・
「それが目的意識の違いって事ですか・・・」
「そういう事よ・・・あなた達は『
その名前はたしか・・・ 前にギルドの資料室でオードリーさん達を勧誘してたクランの名前だよな?
「『蒼天のスイカ』ですよね? たしかこの街唯一の冒険者クランでしたっけ?」
「ええ、そうだけど・・・ スイカ? なんかイントネーションが違う気するんだけど、そのスイカって何の事を言ってるの?」
「えっ・・・? あれ!?」
そういえばこの世界にスイカってあるんだっけ!?
知ってる果物とか植物も一応少しはあるみたいだけど、よく考えたら俺この世界でスイカなんて見た事無いじゃねぇか!
じゃあ『すいか』?ってどういう意味・・・?
「まぁいいわ・・・ その『蒼天の水禍』に私達は前から何回も誘われてるのよ。他のメンバーは乗り気なんだけど、私だけが嫌だからって理由でずっと断り続けてる状態なの・・・」
・・・これがこの前ギルドの資料室で聞いちゃったやつだな。
そうか、他のメンバーはクランに入りたがってたのか。 確かに生活の面ではクランに入った方が安定するかもしれないからな・・・
「オードリーさんがクラン入りを拒んでいる理由はなんです?」
「それは『蒼天の水禍』が良くも悪くもモルフィートのクランだから・・・かな。 確かにモルフィートで活動するだけなら、とても助けになってくれると思う・・・ でも私はこの街だけに留まって生きていきたくはないのよ!」
「・・・なるほど。ここまでの説明で、オードリーさんが何故『氷槍』を辞めようと思っているのかは理解出来ました。 でも、何故急にウチのパーティへ入ろうと?」
「前々からあなた達の話はエマからよく聞いてたのよ。だから『雷鳴』という名前のパーティがある事は知ってたわ」
「エマから俺達の話を・・・」
俺がエマの方へ視線を向けると、エマは「エヘヘ・・・」と照れ笑いを浮かべた。
「エマから『雷鳴』の名前は聞いてたんだけど、その『雷鳴』が私達を助けてくれたパーティだったっていう事が、最近まで私の中で繋がってなかったのよ」
「あの東の山の一件でそれが繋がったって事ですか・・・」
「ええ。そしてあの魔物の死体の数・・・ あれは普通のEランク冒険者が出来るような事じゃ無かった。だから強さも申し分ないと思ったのよ」
「なるほど・・・ でもそれだけじゃ俺達がどういう目的で冒険者をやってるかなんてわからないでしょ? もしかしたら『氷槍』の他のメンバーと同じで、生活していく為だけに活動しているかもしれない」
「さっきエマからあなた達の話を聞いてたって言ったでしょ・・・? だからあなた達がどういう冒険者を目指しているのか知ってるのよ。 まぁ、エマから話を聞いていた時は、ただ大口を叩いてるだけの子達だと思ってたんだけどね・・・」
・・・・そんな風に思われてたのか。なんかちょっと複雑な気持ちなんですけど・・・
この人東の山で会った時もリーダーのアイザックさんに注意されてたけど、基本的に人の事をちょっと見下してるスタンスなんだよな・・・
「まぁ話はわかりました。確かに俺達は色んな街や国を自由に旅する事が目的の1つです。それに、その目的を達成する為に相応の強さを手に入れるつもりでもあります」
「それよ・・・!! 私もそういう風に生きたいの! だからあなた達のパーティに是非入れて欲しい!」
うーん・・・ 熱量は申し分無いし、目指している方向も俺達と変わらない。
もしかして、これって結構良い話なんじゃねぇか・・・?
ちょうど戦力アップについて考えていたところだったし。
「わかりました。それじゃあまずは審査って訳じゃ無いですけど、俺達と一緒に戦ってチームワークに問題がないか、そもそも俺達と一緒に戦える能力があるのか、そこらへんを見極めさせて貰っても良いですかね?」
「ええ!もちろん!」
凄いやる気だな・・・
正直、戦闘能力に関しては全然心配してないんだよな。前に見た『氷魔法』ハンパなかったし。
でも問題はチームワークだ。こればっかりは一緒に戦ってみないと判断つかないからなぁ・・・
俺達はこの後も、一緒に狩りへ行く予定などを決めたり、お互いの今まで行なってきた冒険者活動について話し合ったりした。
そして、ある程度話し終えるとオードリーさんは自分の家へと帰っていった。
「オードリーさん大丈夫かなぁ・・・」
エマの独り言が聞こえたので目を向けると、エマは心配そうな顔で床を見つめていた。
「『氷槍』のことか?」
「うん・・・。ちゃんと円満にパーティを抜けられるのか心配だよ・・・」
「それは・・・どうだろうな。でも俺は大丈夫なんじゃないかと思ってるよ。前に会った時の印象だけど、アイザックさんは話がわかる人って感じだったからな!」
「ほんとに・・・? それならちょっと安心かな」
俺の言葉が励ましになったのかはわからないが、エマの表情は少し明るくなった。
翌日。
今日も『雷鳴』の活動を丸1日休日にした俺は、昨夜就寝前にベッドで思いついた新しい魔法を試す為、1人で北の森へと訪れていた。
「よし・・・ゴブリンが5匹か。試すにはちょうど良い奴らだな」
俺は真っ直ぐゴブリン達の元へ向かって駆け出した。
そして、接敵寸前というところで新魔法を発動する。
『ソニック』
口に出す事無く、頭の中で念じて発動したその新魔法は、俺の体中の筋肉や神経に送られる電気信号を活性化させる。
結果、運動能力は爆発的に上昇した。
全体的なスピードアップはもちろん。
剣速も上がるので攻撃力が上がるし、眼球運動の性能が上がれば動体視力も上がる。
さらに、上がった運動能力が『軽業』と連動して、今まで出来なかった動きも可能となる。
結局3秒ほどでゴブリン達を片付けた俺は、その後も北の森を1人で探索しながら、日が暮れるまで色々な検証を続けた。
結果的に判明した『ソニック』の性能は素晴らしいものだった。
俺の現在の魔力量だと発動時間は10秒ぐらいが限界だったが、今の状況だと左程困るような制限ではない。
俺はこの1日で、確実に強くなれているという実感を手にする事が出来た。
そして、これからもこういう時間をもっと増やしていこうと心に決めたのである。
こんな感じで清々しく1日を終えたのだったが、翌日新魔法の副作用で酷い筋肉痛に襲われるのだった・・・
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