第33話 『緊急依頼⑤』
地獄の『体幹』取得の夜が明けて、俺達は今日の探索をスタートしていた。
順調に魔物を狩りながら山を進んでいると、昼前にまぁまぁな大きさの川に突き当たった。
「これどうしようか・・・?」
クリスが呆然と川を見ながら尋ねてくる。
「どうするも何も、引き返すか濡れるのを覚悟して渡るかのどっちかしかないだろう・・・・で、どうしようか?」
「僕が聞いてるんだよ!」
本当どうするか・・・ 川にぶち当たるのは想定してなかった。
ってかこの川ってもしかして、このまま西に曲がっていってモルフィートの南の川まで流れていくのか?
だとしたら結構山の南側まで来てるって事だけど・・・
「リンク・・・ 川に沿って何かがこっちに向かって来てる」
「マジか・・・。何体?」
「2体だ」
「っ!? まさか!」
俺は速攻剣を抜いて、ファルが示す方向へ向かって構えた。
そんな俺を見て、ファルとクリスも慌てて構えを取る。
「リンクがそんなに警戒するって事は、こっちに向かって来てるのがバトルモンキーだと思ってるんだね・・・?」
「なんとなくだけどな」
「でも2日前とは違って、ここは山の麓周辺だよ?」
「だよな・・・ だから何かがおかしいって事だ」
「そろそろ来るぞ・・・! 木の上を渡ってきてるから、多分リンクの予想通りだ!」
「作戦は同じ。ファルは矢で投石を牽制、クリスは基本ファルをガード。まずは1匹だけでも木から落とすぞ」
「「了解」」
俺は河原にある石を1つだけ拾う。
その瞬間、木の枝を伝って2匹のバトルモンキーが姿を現した。
俺は速攻で拾った石を投げつける。
「ッゥギャァ!!」
しかし石は避けられて、反撃として向こうも石を投げようとしてくる。
だが、『音魔法』によって無音状態になった矢が、投石しようとしていたバトルモンキーの肩へ突き刺さった。
ファルの奴上手いこと当てやがった。 また腕を上げたか・・・?
矢が突き刺さったバトルモンキーは、痛がりながらもファルを睨んでいる。
よーしよし。今のアイツならライトニングが当たるな・・・
木から落ちてきたら前と同じで俺が仕留めに行く。
俺はファルの予想外の活躍と、有利な状況で少し浮かれていた。
「リンクっ!!」
ファルの急な大声が場の空気を一気に変えた。
「ど、どうした!?」
「なんかやばいのが来る・・・! 逃げた方がいい!!」
「なにっ!? いや・・・どっちへ逃げた方がいい!?」
「あっちだ!」
「わかった、逃げるぞ!」
俺達はバトルモンキーを完全に無視して、川の下流方向へ向かってダッシュで逃げだした。
全然状況がわかってないけど、ファルがこんなに焦るなんて相当な事だ・・・!
だってこんな状態のファルを今まで見た事無いんだからな!!
「ギャァァォオオオ!!!!」
「はぁっ!?」
さっきまでいた場所から結構な距離離れたと思ったら、後方から得体の知れないナニかによるとんでもない大きさの鳴き声が聞こえてきた。
俺達は川辺にあった大きな岩の後ろへ咄嗟に隠れる。
・・・・・ヤバい
なんだ・・・? ナニがいる・・・!?
岩の裏でジッとしていると、俺達がさっきまでいた場所の方向から、巨大なナニかの羽ばたき音のようなものが聞こえてきた。
俺は無謀かもしれないがその音の正体を確かめようと、ゆーっくり音をたてないように岩から少しだけ頭を出した。
なんだありゃ・・・・?
もしかして・・・ ドラゴン!?
俺の目に映っているのは、体長20mは軽くありそうな、途轍もなくデカい『ドラゴン』。
そいつが、放置してきたバトルモンキーを咥えて山の頂上へ向かって飛んで行く。
なんつう迫力だ・・・
ドラゴンってたしかAランクの討伐対象だったはずだけど、あんな怪物に勝てる冒険者が本当に存在するのか・・・?
もし本当に存在するなら、俺達はあとどれぐらい強くなればアレに勝てるようになる・・・?
ん? いや、ちょっと待て・・・
わかるじゃねぇか今の俺なら!
俺は飛んでいるドラゴンへ『能力把握』を発動する。
体力値 163
筋力値 189
敏捷値 137
魔力値 131
知力値 98
器用値 101
・・・・化け物過ぎるだろっ!!!
ちょっと待て!今の俺の能力値は・・・
体力値 51
筋力値 51 (↑1)
敏捷値 45 (↑1)
魔力値 41
知力値 90
器用値 32
・・・・虫けら過ぎるだろっ!!!
ほぼトリプルスコアじゃねぇか!! Aランク冒険者どんだけだよ!!
ふぅ・・・落ち着け・・・・・
とりあえず、今はまだ挑んじゃいけない相手だって事は、改めて思い知らされたな。
謙虚に生きよう。強くなるまでは。
「リンク、これはギルドへ報告しに戻った方がいいんじゃないかな・・・?」
「えっ?」
隣に目を向けると、どうやらファルとクリスも俺と同じように岩から顔を出して、飛び去っていくドラゴンを見ていたようだ。
「いや、だって東の山にドラゴンがいるなんて誰にも聞いた事無かったでしょ・・・?」
「っ!! そうだ・・・!確かにそんな話聞いた事も無かったし、ギルドの資料にも載って無かったような気がする・・・!」
「でしょ?だからギルドへ報告しに戻った方が良いと思う」
「・・・そうだな。まずは山から出て、全力で走って街まで戻ろう」
「「了解」」
俺達は山の外まで出ると、剣以外の装備をクリスの『収納魔法』へ入れて、身軽な状態にしてから街へ向かって走り始めた。
途中で一泊だけ野営をする事になったが、空が明るくなり始めるのと同時に出発して走り続けた。
そして、昼前までに無事街へ到着することが出来た。
街へ到着した俺達は、足を止める事無くギルドへ向かった。
ギルドに着くと、いつも世話になっている受付嬢の元まで行き声を掛ける。
「すいません!」
「わぁっ! なに!?どうしたの!?」
「東の山について報告が」
「その顔・・・ 相当な事なのね」
「はい・・・ (東の山でドラゴンを見ました)」
俺は周りに聞こえてパニックが起こらないように、大事な部分を小声で伝える事にした。
「ドッ・・・!? (ちょっとあなた達!私について来て!)」
俺達が受付嬢に言われた通り黙って後ろをついて行くと、3階まで階段を上がって『ギルド長室』と扉に書かれている部屋の前まで連れて来られた。
「えっ・・・? ちょっと待ってください!俺達がギルド長に直接報告するんですか・・・?」
「いいから入りなさい」
緊張しながら言われた通り部屋へ入ると、部屋の中は校長室とか社長室みたいな作りになっていた。
「あれ?誰もいない・・・ あの、ギルド長は?」
すると、横にいた受付嬢が大きな机の向こうまでスタスタと歩いて行き、社長椅子のような椅子に腰を下ろした。
「えーっと・・・ ん?」
「早くこっちに来なさい。改めてちゃんと報告を聞かせて欲しいのよ」
・・・・いやいや、ちょっと待ってくれ。
まさかそんなわけ無いよな・・・?
「いったいなぜ受付のあなたがそこに座っておられるんでしょうか・・・?」
「なぜって・・・ あれ? もしかしてあなた達知らなかったの? 私がギルド長だって」
「・・・嘘でしょ?」
「この状況で嘘なんてつくわけないでしょ。 でも知らなかったなら改めて自己紹介しとくわ。 私が冒険者ギルド モルフィート支部のギルド長『エミリア・レンフリード』よ」
おい、なんだコレ・・・・ 勘弁してくれっ!!
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