第31話 『緊急依頼③』


 山の麓まで戻る道中、警戒をファルに任せっきりにして俺は考え事をしていた。

 さっきの戦いで猿の魔物に対して『能力把握』が発動した事がどうしても気になるのだ。


 何故急に発動したんだ・・・?

 魔物の能力値がわかるようになった理由はなんとなくわかる。 おそらく『能力把握』のスキルレベルが10に達したおかげで、スキルの性能がアップしたんだろう。

 問題は何故今になって急に発動したのか。レベル10になってこの数日間は全く発動しなかったのに・・・


 絶対何か理由はあるよな・・・ レベル10になってから初めて発見した魔物だからか・・・?

  いや、それだったらコボルトやトリプルテイルにも発動していないとおかしい。

 その2種類の魔物とあの猿の魔物との違いはなんだ・・・?


 ・・・・・・もしかして事前に情報が無かった事が理由か?

 俺はあの時、事前に情報が無かったからこそあの猿の強さを探ろうとしていた。それがきっかけだったのかもしれないな・・・


 レベル10に達してからの数日間は、以前と同じ魔物ばかりを相手にしていた。だから敵の能力を改めて探ろうだなんて思ってなかった。

 コボルトとトリプルテイルも、事前の情報でどういう魔物かある程度想定が出来ていた。

 でもあの猿の魔物と対峙した時はレベル10になってから初めて、相手の強さを探ろうとしたんだと思う。


 ・・・なんとなく何故急に『能力把握』が発動したのか理解出来てきたな。

 相手の強さを探ろうとしないと発動しないって事だ。


 ・・・っていうか、これは魔物に対してオンリーなのか?

 試しにファルで発動してみるか。


「なんだ・・・? なんでそんなにジッと見てくる!?」


 ・・・・・うーん、どうやら発動しないみたいだな。


 現状では俺自身と魔物にしか発動しないのか・・・

 人に対しても発動出来るなら、自分の能力値と比較する事が出来るようになるんだけどな。

 まぁ、そこらへんはレベルが更に上がれば出来るようになるかもしれないか・・・


「・・・リンク、無視をするな」


「え?」


 この後、意図的では無かったが無視していた事をファルに謝罪し、判明した『能力把握』の新機能を2人に説明した。




 山の中を歩き続けた俺達は、ようやく山の麓まで戻ってきていた。

 既に時間は昼だったので、山から少し離れた場所で休憩をしながら、サンドウィッチを摘みながら話をしている。


「それにしても午前中だけで相当疲れたな」


「そうだね。大量発生って言ってもこんなに魔物がいるとは思ってなかったよ・・・」


 そうだよな・・・

 明らかに前の緊急依頼より規模が大きかった気がする。

 今回が特別なのか、前回のが特別なのか・・・?


「結局あの猿の魔物はなんだったんだ?」


 ファルがさっき森の中で聞いてきた事と同じ事を尋ねてきた。


「あー・・・正直俺もよく知らないんだ。魔物関連の本で見た事あるような気がするんだけど、なかなか思い出せなくてな・・・」


「あのさぁ・・・ 僕さっきちょっと思い出したんだけど、あれ『バトルモンキー』じゃないかな?」


「バトルモンキー・・・・うん、それだ!! よく思い出せたなクリス!」


 そうだそうだ、バトルモンキーだ・・・!

 いやー、よく思い出してくれたよクリス!はぁ〜スッキリした。


「たしかDランクの魔物だったよね?」


「いや、俺はそこまで覚えてない。でもDランク以上だろうなとは、戦ってる時に思ってたけど」


 明らかにEランクの魔物とは強さのレベルが違うかったし。


「あの場からすぐに離れたのはそれが理由か?」


「あぁ。Dランク以上が2匹同時に出てくる場所なんて、俺達にはまだ危険だと思ったからな。気付かないうちに山の中腹の方まで入ってしまってたんだと思う」


「なるほどね。それで昼からはどうするんだい? さっき探索した所の周辺は、もう既に他の冒険者達に狩り尽くされちゃってると思うんだけど」


「うーん、そうだなぁ・・・」


 夕方までには街に戻っておきたいんだけど、『能力把握』の確認もしておきたいんだよな・・・


「なら山の麓を一周グルっと回ってみるか?」


「・・・アホかっ!数日掛かるわ!!」


 まさかファルがナチュラルにボケてくるとは・・・


「僕も提案していいかな?」


「おう。ファルみたいな突拍子もない提案じゃなければ」


「うん・・・ 実はファルの提案とほとんど変わらないんだけど、これから一旦街へ戻って野営の準備をして、数日掛けて山の麓をグルっと回るのはどうかな・・・?」


「・・・・・えっ?マジで?」


 クリスまでどうしたってんだ・・・


「野営の練習だよ!僕達はまだ泊まりで依頼をこなした事が無いから、この機会にやってみるってのもいいんじゃないかなって!」


 ・・・・・ほう、そういうことか。

 クリスからこの提案が出てきたのは意外だけど、これはなかなか面白いかもしれない・・・

 確かにこの先野営をしながらこなす依頼を受ける事もあるはず。それを考えたら今回は依頼達成に期限がある訳でもないから練習に都合が良いのかもしれない・・・

 うーん、なんかこの話悪くない気がしてきたぞ!


「・・・よし!クリスの案を採用で!」


「本当に!?」


「おい!さっき同じような提案で俺にアホって言ってなかったか・・・?」


「理由の説明が無かったからな!!」


「・・・・・」


 とりあえずグーの音も出ていないファルは置いといて、クリスが凄ぇ嬉しそうにしてるのが気になる。

 なんか小声で「やった!野営だ・・・!」って言ってるけど、野営出来る事がそんなに嬉しいのか・・・?


「とりあえず、やる事は決まったわけだしさっさと街へ今日の分の依頼報告と、野営の準備をしに戻ろうか。あっ、あとエマにも野営することを伝えておかないとな!」


 そして、俺達は早めに昼休憩を切り上げて街へ戻る事にした。




 俺達は街に戻るとまずギルドへ顔を出す。

 受付嬢に声を掛けて挨拶を済ませると、クリスの『収納魔法』から討伐証明部位を出していく。


「な、何よこの数!? あなた達午前中だけでこんなに魔物狩ってきたの!?」


「はい。でも午前中どころか山に入ってすぐでしたよ? とんでもない数が一気に襲ってきたんで」


「そうなの・・・ならちょっとこの数は異常ね・・・」


「・・・それは今までの緊急依頼と比べてって事ですか?」


「えぇそうね・・・ まだあなた達以外の冒険者達が帰ってきてないから情報が偏ってるのかもしれないけど、明らかに想定よりも魔物の数が多すぎるわ」


 そうか・・・

 やっぱり前回のじゃなくて今回の緊急依頼が異常なんだな。


「でも街から近い山の麓付近は、もうほとんど狩り尽くされたと思います。そんなに心配しなくても大丈夫じゃないですか?」


「いいえ、問題はそこじゃないのよ・・・ 前例に無い事が起きてるって事は、山で特別異常な何かがあったのかもしれないって事よ。その正体や原因がわからないと対策が立てられない・・・」


「なるほと・・・ 確かにそうですね」


 元々東の山は魔物が大量発生する傾向にあったのかもしれないが、今回の規模はギルドの想定よりも酷いみたいだ。

もしかしたら、もっと他の大きな出来事の副次的な現象として、超大量発生が起こっているのかもしれない。

 俺は今回の事を少しナメてたのかもしれないな・・・


「とりあえず、支払いを済ませとくわ。トリプルテイル7匹と、コボルト54匹・・・って改めて口に出すと異常な数ね!まぁいいわ・・・はい、合計24万4000ブランよ」


「えっ・・・?マジですか!?」


 おいおい、半日だぞ・・・!?

 半日で24万って!!


「大マジよ。緊急依頼で報酬が上がっていて、Eランクの魔物はそれぞれ1匹4000ブランになってるわ」


 最高!緊急依頼最高!!

 本来そう思っちゃ駄目なのはわかってるけど、そう思わざるを得ない!!


「慎んで受け取らせて頂きます」


「・・・どうぞ」


 おほーっ!袋が重い!


「ちょっといいですか?緊急依頼ではEランク冒険者がDランクの魔物を倒したらどうなりますか?」


 おっと・・・クリスが非常に大事な事を聞いてくれているみたいだ。


「それは残念だけど報酬を支払えないわ。もちろんギルドへの貢献度も加算されない。 そこをしっかり制限しないと、無理をして死んじゃう子達が出てくるかもしれないからね」


 うーむ、耳が痛い・・・。

 もし報酬が出るって言われたら、俺は無理をしてたかもしれないから・・・

 だってEランクの魔物だけで半日24万ブランも貰えるんだもの。


「それは仕方ないですね・・・ ちなみにバトルモンキーって何か売れる素材はありますかね?」


 ・・・・・やめてくれクリス。

 高額で売れる素材があるとか聞いたら、俺は我慢出来る自信が無い・・・


「バトルモンキーは魔石以外に売れる素材が無いわね」


「そうですか。わかりました」


 ふぅ・・・ 助かった。

 これで無茶をする必要は無くなった・・・

 それにしても、依頼の報酬無しなら魔石代の1000ブランにしかならないのかあの猿。 ちょっとショックだな。


 その後、俺達は依頼を再度受ける事と、数日間野営しながら依頼をこなす事を報告してからギルドを出た。




 ギルドを出た後は、野営に必要な物資を買い回って、家の仕事部屋にいるエマに数日間家を留守にする事を報告した。


 そして、全ての準備を済ませた俺達は夕方前に街を出て、再度東の山へと向かった。

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