第30話 『緊急依頼②』
ポーションを飲んで休憩を終えると、ファルと2人で周辺に倒れている魔物の死体から、魔石と討伐証明部位の回収をしていた。
「リンク・・・」
「ん?」
剥ぎ取りを続けていると、何故かファルが俺の名前を呼んだので顔を上げた。
すると、山の麓から1組のパーティがこっちへ向かって歩いてくるのが目に入った。
「なにこれ・・・・・ この数の魔物を全部あなた達が片付けたの?」
おぉ・・・マジかよ。
誰かと思ったら魔女のパーティじゃねぇか・・・
いつも通り魔女1人、槍使いの男1人、剣使いの男2人の4人パーティだな。
「まぁ、一応そうですね」
「信じられない・・・ 私とそんなに変わらない歳に見えるのに」
「おい・・・ それ普通に失礼だぞオードリー」
「えっ!? 私今失礼な事言ってた?」
「言ってたな。さっきのは同年代の奴らを見下してるとも取れる言い方だ」
「えっ・・・ 全くそんなつもり無かったんだけど・・・」
・・・・・なんだコイツらは。
とりあえず、魔女の名前が『オードリー』だという事はわかった。一応覚えとこ・・・
ってか放っといたら自分達だけで話し続けそうだな。
「申し訳ないんですけど、迂回してもらった方がいいかもしれないです。ここを通ると靴が血で汚れちゃうと思うんで」
「えっ?あぁ・・・確かにこの中を通るのは気が引けるわね」
「というより急に話しかけてしまってスマンな。俺達は『
へぇー、この槍使いの人がリーダーだったのか。
ってかよく見たら結構男前だな。
「全然大丈夫ですよ。俺達は『雷鳴』って名前のEランクパーティで、一応俺がリーダーのリンクです」
「嘘でしょっ!? Eランク!? 2人でこれだけ魔物殺してるのに!?」
ん・・・? 2人?
あーーなるほど。この人達からは木が被っててクリスが見えてないのか。
「いや、一応俺達3人パーティですよ。ほら、あそこで木にもたれて休んでる奴。アイツがもう1人のメンバーです」
「あっ、本当だ。もう1人いた」
「いやいや、3人でもこの状況は充分おかしいと思うんだけどな・・・」
「・・・あっ!!!」
なっ!? 魔物の生き残りでもいたのか!?
「オードリーなんだ急に!?」
「あの子・・・! いや・・・なんでもないわ。見間違えだったみたい」
「なんだよ・・・ 頼むからビックリさせないでくれ・・・」
アイザックさんの言う通りだわ!俺もマジで焦った・・・!
おっかねぇなこの魔女!
でも、まだ様子おかしいんだよな・・・・ ずっとクリスの事見てるし。
もしかしてイケメンだからか?一目惚れか?
「うちのメンバーが急に大声を出して悪かった・・・ 俺達はもう行くから作業を続けてくれ。それじゃ」
そう言うと『氷槍』の4人は俺達から離れていった。
若干1名、魔女っ子オードリーだけは最後までクリスの事をチラチラ見てたけど・・・
途中で邪魔はあったが、なんとか全ての死体から魔石と討伐証明部位を回収し終わった。
俺とファルが回収した物を合わせて数えてみると、トリプルテイル7体、コボルト38体で合計45体も倒していた事が判明した。
「おぉ・・・ 結構な数いったな」
「本当にとんでもない数だね・・・ とりあえず全部収納するよ?」
「あぁ頼む。それよりもクリスはもう大丈夫なのか?」
「うん、もう平気。休ませてもらって悪かったね」
「いや、気にしなくていいって」
その後、回収した物を全てクリスに収納してもらって、再び山の中を探索し始めた。
どうやらさっき会った『氷槍』のように、結構な数の冒険者が俺達の戦いの間に山へ入ってきていたようで、明らかに周辺から魔物の気配が減っていた。
「もうこの付近はだいたい狩り尽くされたかもな」
「じゃあどうしようか?もうちょっと奥に行ってみるかい?」
「そうだなぁ・・・ ファル、山の奥からはまだ魔物の気配を感じるか?」
「あぁ。奥にはまだ結構な数残ってるな」
「そうか。よし、それじゃあもう少し深くまで入ってみるか」
色々考えたが、結局俺達は山の少し奥まで探索範囲を広げる事にした。
徐々に山の深くへ入って行ってるが、さっきまでとは違って全然魔物と遭遇しない時間が続く。
そして、探索を始めて30分ぐらいが経った頃、やっとファルが魔物の気配を捉えた。
「・・・・あっちの方から2匹近づいて来る」
「ん・・・? 2匹?」
ちょっと待てよ?
2匹の時点でコボルトでは無いよな・・・ じゃあトリプルテイルか?
でもあいつらは単独で行動する魔物だよな・・・?
「あそこの木の上だ!」
はぁっ!? 木の上!?
「キィィイ!ウキャッ!」
・・・おいおい! なんだあの猿みたいな魔物!
なんか見た事あるような気がするけど、確実にEランクの資料には載ってなかった奴だぞ!!
「ウッキィャア!!」
ガンッ!!
「ぐっっ!!とりあえず僕が前で止めるから!」
マジかよ!木の上から石投げてきやがった!!
クリスが盾でカバーしてくれたから助かったけど、アレは糞面倒だ!
「ふぅ・・・ ファルはアイツらが投石してくるのを弓矢で阻害してくれ。すばしっこいから難しいだろうけど」
「了解」
ヤバいな。情報が無いからどういう魔物かよくわからん・・・
こんな観察してても状況が変わるわけでもないし・・・・・あれ?なんだこの感じ?
ちょっと待て、もしかしてこの感覚って・・・
体力値 39
筋力値 71
敏捷値 52
魔力値 8
知力値 21
器用値 55
・・・うぉい!!マジか!!!
猿共の能力値がわかるじゃねぇか!! なんでこの状況で『能力把握』が発動したんだ!?
いやいや!そんな事考えてる場合じゃねぇ!!
「ライトニング!」
俺はファルの矢を避けて隙が出来た1匹に『雷魔法』の稲妻を放つ。
そいつは命中すると、体が硬直してしまって木から落下してきた。
「よし!アイツは俺が仕留めに行くから、ファルはもう1匹に集中してくれ!」
俺はファルに指示を出すと、それと同時に駆け出した。
落下した猿の元へ辿り着く寸前、その猿は硬直が解けて俺へ向かって殴りかかってくる。
「キィッ!!」
「うおっ!危なっ!」
コイツ速い! ってか近づいてみたら思ったよりデカいし!!
猿の攻撃をなんとか躱すと、猿の首へ向けて剣で突きを放つ。
「ウキャッ!!」
「ぐはっっ!」
俺は剣が首を貫くと思っていたのだが、なんと猿は下に潜る事で剣を避けたのだ。
しかも、下に潜った状態のまま即座にボディブローを決めてきた。
俺はバックステップして一旦距離を作ると、剣を投げ捨てて腰から短剣を引き抜く。
こいつヤバイな・・・! 避けられるのは予想外だったぞ・・・
とりあえずこっちもスピード重視で行くしかない。
「シッ!」
一気に距離を詰め、今度は避けづらい胸の中央辺りへ短剣で突きを放つ。
猿はそれをバックステップで避けて、再び低い姿勢の状態で殴りかかってきた。
俺は距離を詰めてきた猿の頭の上に左手を置いた。
そして、そのまま頭の上で片手倒立をするかのように飛び跳ねて、殴りかかってくる猿の拳を躱す。
「スタンガン!」
さらに、頭上で倒立したタイミングで魔法を放った。
俺は猿が硬直するのと同時に、頭上で前宙するかの様に回転して、上手いこと猿の背後へと着地した。
着地と同時に後ろへ振り返り、隙だらけになっている猿の首の後ろを短剣で切り裂く。
太い血管まで短剣が届いたのか、首から血を噴き出させた猿の魔物は、力無く地面へ倒れて死んだ。
残ったもう1匹を確認しようと目線を向けると、肩に矢が刺さっている状態で木を伝って逃げていく後ろ姿が見えた。
「くそっ、逃げやがった・・・!」
俺が逃げた猿の後ろ姿を睨んでいると、ファルとクリスは俺の元まで歩いてきた。
「お疲れ。お腹殴られてたけど大丈夫?」
「全っ然!大丈夫じゃない・・・超痛い・・・」
「いやいや、早くポーション飲みなよっ!!」
俺は苦笑いをしながら、クリスに言われた通りポーションを飲む事にした。
「ぷはっ!これでそのうち痛みが引いてくるだろ」
マジであのボディブローは効いた・・・
筋力値71だっけ? 確かにとんでもないパワーだったな・・・
「リンク、結局この猿の魔物はなんなんだ?」
ファルが地面に転がる猿の死体を指差しながら俺に尋ねてきた。
「待ってくれ。まず先にここから離れよう。 クリス、この死体をそのまま収納してくれ」
「わかった。・・・はい、収納完了」
「よし、それじゃあ早く麓の方まで戻るぞ」
そして、俺達はすぐにその場から離れて麓の方まで急いで戻った。
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