第29話 『緊急依頼①』


 休日から数日が経った。


 俺達はいつも通り、南の川での依頼を終えて街へ戻ってきていた。

 依頼完了の手続きをしようとギルドへ入ると、ギルド内がいつもよりやけに騒がしい。


「なんか騒がしいね」


「なんだ? 何かあったのか・・・?」


 俺達がキョロキョロと周りを見回していると、依頼掲示板の方から冒険者達の大きな話し声が聞こえてきた。


「緊急依頼だってよ!」


「おぉ!低ランクの奴らは稼ぐチャンスだぞ!!」


「オメェも低ランクだろ!ギャハハッ」


「うるせぇ!言われなくてもわかってんだよ!」


 ・・・・・なるほど、緊急依頼か。

 緊急依頼なんて数年振りに聞いたな・・・。たしか俺が見習いの頃にゴブリンの群れが発見された時以来だ。


「リンク、俺達も緊急依頼受けるか?」


「・・・いや、とりあえず先に内容を確認しよう」


「そうだね。まだEランクの僕達が参加出来るのかわからないし」


「・・・確かにそうだな」


 俺達はとりあえず依頼掲示板で緊急依頼の内容を確認する事にした。


「・・・推奨冒険者ランクE〜Cか。一応受けられるな」


「依頼内容は、東の山で起こった魔物大量発生への対処・・・ これは大変だね」


 ファルはいつも通りみたいだけど、クリスはだいぶ動揺してる・・・

 まぁ領主の息子として街の心配もあるんだろうけど。


「とりあえずこの内容なら受けてもいいな。それにしても東の山か・・・」


「そういえば前に、リンクが東の山は面倒な魔物しかいないから避けるって言ってたね」


「あぁ・・・ おそらく今回の大量発生の原因もそれだと思う。俺達だけじゃなくて、他の冒険者達も東の山の依頼を避けてたんだろうな」


「しっかり間引きが出来てなかったって事だね・・・」


「そういう事だな・・・ 少なからず罪悪感があるから、今回の緊急依頼でしっかり間引いてやる事にしようか」


 俺の意見にファルとクリスの2人も賛同してくれたので、受付に行って明日受ける分の緊急依頼を先に手続きしておいた。

 これで明日はギルドへ顔を出さずに、そのまま東の山へ向かえばいい。




 翌朝。

 俺達は現在、東の山へ向かっている最中だ。

 ちなみに、昨夜は夕食を食べた後しっかり作戦会議をしておいた。


「そろそろ着くから警戒を強めていこうか」


「「了解」」


 視界に他の冒険者達もちらほら見えているが、その人達も既に警戒をし始めているようだ。

 昨日受付で聞いた話だと、どうやら既に山から魔物が溢れ始めているらしい。

 要するに、この一帯はもういつ魔物が出てきてもおかしくないという事。

 

 警戒しながら歩いていると、俺達の後ろから複数人分の走ってくる足音が聞こえてきた。

 そして、その足音の張本人達は大声で周辺の冒険者達に声を掛けながら、俺達の近くを走り抜けて行く。


「お先ー!山の奥は俺達が片付けに行くから、みんなは麓と周辺の処理よろしくねー!!」


 ・・・なんだあの人達? めちゃくちゃ陽気だな。

 おそらくCランクかDランクの冒険者なんだろうけど、緊張感が無さすぎてこっちも気が抜けてくる・・・


 ・・・でもよく考えると、あの人達みたいな気楽さでいいのかもしれない。 張り詰め過ぎても疲れるし。

 なら俺達もそのノリに乗ってみるのも一興だな!


「よし、ファル!クリス!俺達もあんな感じで行こうか!」


「えっ!?」


「走るのか?」


「あぁ。走ろう!」


 俺はそう言うのと同時に駆け出した。

 ファルとクリスもしっかり俺の後ろに着いて来てくれている。


 東の山へ向けて走っていると、50mぐらい先に5匹の『コボルト』がいるのが目に入った。


「止まらず行こう!弓と盾はいいから各々剣で!」


「「了解!」」


 俺達はそのままコボルト達に突っ込み、1匹1匹剣で軽々と仕留めていく。


「楽勝楽勝。魔石と耳だけ回収してまたすぐ出発しよう」


 その言葉通り、俺達は剥ぎ取りを終えるとすぐに走り出す。

 その後も数回コボルトに遭遇したが、同じように速攻で倒して先へ進んだ。




 そして、俺達は問題無く東の山の麓まで辿り着いた。


「流石にこっからは慎重に行こうか。いちいち作戦指示は出来ないだろうから、各々昨夜の会議を思い出しながら動いていこう」


「「了解」」


 昨夜の会議で話し合ったのは、各々がどう動くかという事。

 基本的に俺とクリスはいつも通りなのだが、敵の数が増えすぎたり囲まれたりした時は、ファルだけが自由に判断して臨機応変に動く事になっている。

 弓が無理そうなら剣に変えたり、敵が多すぎたら『音魔法』で撹乱したり、そこらへんの判断は全てファルに任せる事にした。


「それじゃあ、山に入って行こう」


 俺達は改めて気を引き締めると、慎重に山に入っていく。




 山に入って5分も経っていないのにファルが立ち止まった。


「・・・どうした?」


「来る・・・! 凄い数だぞ!」


 その直後、山の木々の間から十数匹のコボルト達と一緒に、3本の尻尾を持つ狐『トリプルテイル』が数匹こっちに向かってくるのが見えた。


「多すぎっ!!」


 クリスはそう言うと、瞬時に俺達の前へ出て盾を構える。

 ファルに至っては既に矢を撃ち始めていた。


 俺は平静を保ちつつ、右手に普通の片手剣、左手に鋼の短剣を構えた。

 ちなみに、両手剣は置いてきている。


 ファルの弓矢は、既に遠距離からコボルト2匹を仕留めている。


「ファルは狐の方を仕留めてくれ!」


「了・・・解!」


 ファルは器用にも矢を放ちながら返事をしてくる。

 俺が何故ファルにトリプルテイルを優先させたのかと言うと、思っていたよりも遠い距離から既に火の玉を撃ち始めていたからだ。


「クリスはファルを全力死守!」


「了解!」


 俺はクリスに指示を出すのと同時に、クリスより前へ飛び出した。

 そして、目に入るコボルトを片っ端から斬り伏せていく。


 飛んでくる火の玉を短剣で防いで、後ろから襲ってくるコボルトの腹に蹴りを喰らわす。


 すると、左右両サイドから掴みかかろうとしてくる腕が見えたので、しゃがんでそれを躱し、右側の奴の心臓に剣を突き刺し、左側の奴には顎から脳天へ向けて短剣を突き刺した。


 そして、即座に2匹から剣と短剣を引き抜くと、さっき後ろへ蹴飛ばした奴が起き上がって襲い掛かって来ているので、振り向きざまに剣を振り抜いて頭を刎ね飛ばす。


 息つく暇も無く、右から火の玉が顔に向かって飛んでくるのが目に入ったので、それを上体を逸らす事で躱して、その勢いのまま後ろへバク転して顔を上げる。

 すると、火の玉を飛ばしてきたトリプルテイルは、既にファルの矢によって仕留められていた。


 俺はそのまま周囲を見渡して、まだ生きているコボルトがいないかを確認する。

 そして、その後も確認と殲滅を繰り返しながら、次々とコボルトを狩っていった。




 数分後、戦闘が終わると辺りは血の海になっていた。


 俺は戦ってるうちに2人から離れてしまっていたようで、ファルとクリスの方へ視線を向け状況を確認した。

 

 2人の周りにも血の海が出来ていて、その中心ではクリスが盾に体重を預けて息切れしていて、その横では剣を片手に周囲を警戒しているファルが立っている。


「ファル!まだ周辺に気配はあるか!?」


「・・・・・いや、もう周辺にはいないみたいだ!」


「そうか、やっと終わったか・・・・・ふぅ、とりあえず一旦休憩だな・・・」


 俺は地面に転がっている死体を避けながら、2人の元へ向かった。


「2人とも怪我は無いか?」


「俺は擦り傷程度だ」


「ハァ・・・ 僕も・・・ ハァ大丈夫・・・」


「いや、クリスはバテ過ぎだろ!」


「ハァ・・・ 疲れた・・・」


「わかったわかった。クリスはとりあえず血で汚れないところに座って休憩しててくれ」


「了解・・・」


 ほんと凄ぇバテてるな・・・

 まぁ、ほとんどデカい盾を持っての無酸素運動だったから、疲れるのも仕方ないけどな。

 途中で何回か魔物の追加もあったし。


 とりあえず、俺も小さい怪我結構してるからポーション飲んどこ。


 俺とファルも、座り込む事は無かったが軽く休憩する事にした。

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