第28話 「休日」


 一緒に家を出た俺とファルは、街を歩いてテッタさんの武器屋まで来ていた。


「テッタさん、こんにちはー」


「お?バロンの倅じゃねぇか。と思ったら珍しくファルも来てるのか」


「ご無沙汰してます」


 ・・・・・なんでファルは名前呼び?

 俺の方が常連でしょうが! まぁいいけど。


「それで、短剣のメンテナンスってもう終わってます?」


「おう、終わってるぞ。ほれ」


 テッタさんがメンテナンス済みの短剣を手渡してきた。


「ありがとうございます。 ちなみになんですけど、この短剣ってこまめにメンテナンスしてればまだ使えそうですかね?」


「いや、そろそろ買い替えた方が良いんじゃねぇか? お前もうその短剣3年以上使ってるだろ? 成長した体格に合わなくなってきてるぞ」


「そうですか・・・」


 確かにテッタさんの言う通り、使い始めた時から身長が10cm以上伸びてるからなぁ・・・

 くぅぅぅ・・・よし、仕方ない!


「買い替えます!とりあえず今の短剣は使い潰すつもりですけど」


「おーそうか。それならあっちに短剣の棚があるから、好きなもの選んで持ってきてくれ」


「わかりました」


  教えられた棚に並べられている短剣を1本ずつ手に取ってみる。


 今使ってるのは体がデカくなっちゃったせいで、長さと重さが足りなくなってるんだよな。

 今使ってるのが刃渡り15cmぐらいだから・・・・・ 思い切って25cmぐらいの買っちまうか! この長さだったら今のよりも殺傷力が高いだろ。


 となると、あとは値段だな・・・

 『鉄の短剣』2万ブランで、『鋼の短剣』5万ブランかぁ・・・・・悩む!!

 長く使うなら鋼の短剣なんだけど、5万はなかなか・・・あぁ!もうしゃらくせぇ!!

 ドンと行け! 金ならまた稼げば良い!!


「テッタさん!この鋼の短剣買います!!」


「お、おう。まいどあり・・・」


 よし!もう金は払ったから引き返せなくなったぞ!

 はぁースッキリしたぁ〜。やっぱ高い買い物するとなんかスカッとするな。ハマりそうだ。


「これで俺の用事は終わったけど、ファルはテッタさんに相談があるんだろ?」


「あぁ。俺は1人で残るから、リンクは別の用事に行ってくれて大丈夫だ」


「そうか? なら俺はギルドへ調べ物しに行く事にするよ。 それじゃテッタさん、また来ます」


「おう。気をつけてな」


 俺は武器屋を出ると、そのままギルドに向かった。




 ギルドに着くと、受付に声をかけて2階の資料室で調べ物を始める。


「王都のダンジョン、王都のダンジョン・・・・・あった」


 どれどれ・・・・よし、これだ。前に兄ちゃんが言ってた初心者用ダンジョン。

 やっぱりEのダンジョンで間違いなさそうだな。

 ここなら今の俺達でも攻略出来ると思うんだけど・・・


 ダンジョンは攻略の難易度によって5段階で階級分けがされていて、その難易度は階層の深さによって判断される。


 難易度E:10階層

 難易度D:15階層

 難易度C:20階層

 難易度B:25階層

 難易度A:30階層


 しかし、難易度で変わるのは階層の深さだけでは無く、出現する魔物の強さも変わってくる。

 そして、ダンジョンの難易度はそのまま冒険者ランクと直結していて、わかりやすく難易度EのダンジョンはEランク冒険者推奨という事になっている。


 ちなみに、俺がいるこのハイトー大陸には、難易度Sのダンジョンが1つだけ存在している。

 一般的にはダンジョンで31階層以上が発見されると、それは難易度Sだと判断される。


 そろそろ俺達も王都の難易度Eダンジョンに遠征して良い頃かもな・・・

 もし行くなら、先に兄ちゃんに手紙送っとかないと


「いい加減にしてください!何回も断ってるじゃないですか!」

 

 うぉっ! ・・・・・なんかモメてるのか?


「そう言わずにさぁ。君達にも悪くない話だと思うんだけど」


「悪い悪くないとかの話じゃないんですよ。今はまだクランに入るつもりは無いんです!」


 ・・・なんか盗み聞きしてるみたいで嫌だな。

 声が聞こえてくるのは棚2つ向こうぐらいからか・・・ 俺がいる事に気づいてないのか?


「なんでそんな頑なに断るのか、俺には全く理解出来ないよ。モルフィート唯一のクランなんだよ?」


「・・・そうだとしても『蒼天そうてん水禍すいか』さんにはお世話になるつもりはありません」


 ・・・? どういうクラン名だそれは。

 にしてもしつこい勧誘は確かに面倒だろうな・・・

 でも、今みたいな断り方をしていたら駄目だな。余計面倒事に巻き込まれそうな気がする。


「わかったわかった・・・もう一生誘わねぇよ。今後入りたくなっても簡単に入れると思うなよ?」


「わかってます・・・」


 ・・・・・男の方は出て行ったか?

 はぁ、どんな子か知らないけど、この街で冒険者をやっていくなら目をつけられちゃいけない相手だったんじゃねぇか・・・?

 なんてったって『蒼天のスイカ』はモルフィート唯一のクランみたいだし。


「私は自由に生きたいだけよ・・・」


 ・・・・・・ふむ。なんか痛々しい声を聞いてしまった。

 それにしても、この声の子は俺達と同じ目的意識を持つ同志だったのか・・・

 どんな子だろ・・・棚の隙間からちょっと覗いてみるか。


 そして俺は、静かに3歩横へ移動して、棚の隙間から向こう側を覗いてみた。


 あれ? まさか・・・・・『氷魔法』の魔女じゃねぇか!!

 オークと戦ってるのを見た後も、何回かギルドや北の森で見かけた事はあったけど、まさかこんな状況で出くわすとは・・・・


 それにしても、なるほど納得だ。

 そりゃあれだけの魔法が使えるなら勧誘されるわな・・・


 俺はその後も昼まで資料室で調べ物を続け、キリの良いところで切り上げると適当な店で昼食を済ませた。




 昼食後、荷物や資料のメモなんかを整理する為に一旦家へ帰った。

 整理を済ませると、俺は再び家を出て実家へ顔を出した。実家に帰るのは2週間ぶりになる。


 実家では母さんと近況を話したり、リリーの遊び相手をしたりして夕方まで過ごした。

 実家から出るまでに父さんが仕事から帰ってこなかったので、今回は父さんと顔を合わせる事が出来なかった。


 実家を出て家に戻った後は、エマがなんとか夕食を作りに来れたようだったので、みんなでそれを食べて寝るまでのんびり過ごす事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る