第26話 『南の川』


「ここらへんから警戒度上げていくぞー。地図だと川はそろそろだからな」


「「了解」」


 南の川の周辺まで辿り着いた俺達は、慣れない景色を眺めながらもしっかり周囲を警戒して歩いている。


「それにしても草が邪魔で周囲が見えづらいな・・・。川がまだ見えてこないぞ」


「そうだね・・・。川沿いは視界が広がってるといいんだけど」


 俺達の視界にはほとんど草しか入っていない。

 なぜなら、周辺の草が全て俺達の身長ぐらいの高さまで生い茂ってしまっているからだ。


「ファル、何か聞こえるか?」


「・・・・・いや、水の流れる音は聞こえてくるけど、生き物の足音とかは全く聞こえないな」


「マジか・・・」


 でも、それもそうだよな・・・。

 ビッグトードは魔物って言っても結局はカエルだ。無駄に歩いたりせずジッとしてるよな普通は・・・


「うわっ!!」


「クリス!?」


 クリスの声がしたので振り返ると、草陰からデカいカエルがクリスに向かって飛び跳ねていた。


「っ!! 出たよ!ビッグトード!」


 クリスはなんとか向かってくるカエルを盾でガードする事に成功したようだ。


 俺とファルは同時に両手剣と剣を引き抜いて、クリスの足元にベタッと着地したビッグトードの側面に立った。

 俺とファルは左右の側面から剣を振り下ろす。

 そして、致命的なダメージを負って瀕死のビッグトードに、クリスが剣でトドメを刺して戦闘を終了した。


 その瞬間。

 戦闘を終えて油断している俺の右側から、別のビッグトードが飛び跳ねて突進してくるのが視界の隅に見えた。


「やばっ・・・! ぐっ!!!」


 俺は突進をモロに食らってしまい、2m程吹き飛ばされる。


「リンク!? ファル、僕が抑えとくからリンクを頼む!」


「あぁ!」


 俺は起き上がろうとしたが少しフラついてしまい、両手剣を杖にして立っている事しか出来ないでいる。


「リンク、大丈夫か?」


「あぁ・・・ 大丈夫だ。すぐポーションを飲んで復帰する。だからファルは先に戻ってくれ」


「・・・わかった。周りにまだいるかもしれないから気をつけてくれ」


 ファルはそう言うと、クリスの元へ向かいビッグトードに攻撃を始めた。


 俺はポーションの瓶を取り出そうと腰のポーチに手をやった。だが、瓶は吹き飛ばされた勢いのせいで割れてしまったようだ。


「くそっ・・・マジか」


 完っ全に油断してたな・・・

 とりあえず怪我は・・・・してない。ビッグトードじゃなかったら大怪我してたかも・・・

 おっ、フラついてた視界が戻ってきた・・・ よし。


 俺は周りに他の魔物がいないかぐるっと確認すると、勢いをつけて駆け出した。


 その勢いのまま、ファルの剣をピョンピョンと避けているビッグトードに飛び蹴りをかます。


「この糞ガエルがぁっ!!」 バコッ!!


 着地した後、吹き飛んでいくビッグトードの元へ瞬時に駆け寄り、ひっくり返っているビッグトードの動きを首元を踏んづける事で抑える。


「痛かった、ぞっ!!」


 そして、足の下で暴れるビッグトードの頭へ向かって両手剣を突き刺した。


「・・・・・」


 今回は仕留めた後でも油断せず、周囲に注意を払いながら後ろを振り返った。

 すると、ファルとクリスが呆れた表情で俺を見ていた。


「えっ!?なに?」


「・・・・なんちゅう戦い方してるのさ」


「ブッ!!」


 クリスの一言に俺が苦笑いをすると、それを見たファルが思いっきり吹き出した。


「おいファル!」


「すまんすまん・・・! あまりにも顔が情けなかったからつい・・・ ブッ!!」


「おいコラ、勝手に思い出して笑うなって」


「すまん・・・・・ くっ!!」


 その後、ファルの思い出し笑いが収まるまで、俺とクリスの2人で仕留めた2匹のビッグトードの解体をした。




 解体を終えると、俺達は再び川へと向かって歩き出す。

 歩くたび徐々に草は低くなっていき、ようやく川を視界に捉えられるようになってきた。


「おぉ・・・ 思ってたより川幅が広いな」


「本当だ・・・」


「川ってこんなにデカいものだったのか・・・」


 ファルとクリスはどうやら川を見るのが初めてだったようだ。


 3人で川に見惚れていると、川の真ん中らへんで何かが水面からゆっくりと頭を出した。

 そしてすぐにチャポンッと音を鳴らして川に沈む。


「今のがサハギンだな・・・」


「僕達の事を確認したみたいだけど、こっちに向かってくると思うかい?」


「おそらくな。とりあえず一応は戦闘態勢を取ろう。ファルもここなら弓矢を使えるだろ?」


「こんだけ視界が広ければ大丈夫だ」


「よし。それじゃあクリスは前、ファルは後ろで構えておいてくれ」


「「了解」」


 俺達が位置について15秒程経った時、川岸から凄い勢いで人型の魚が飛び出してきた。


「サハギンだ!くるぞ!」


 サハギンは飛び出した勢いのまま俺達へと向かってくる。


 カンッ! カンッ!


「こっちに来い!」


 クリスが盾を剣で叩いて挑発しながら左へ駆け出した。

 俺はそれを確認すると、クリスとは反対方向へ駆け出して、サハギンの側面を取るために回り込む。


「グェッ!!」


 クリスに釣られて襲い掛かろうとしているサハギンの左膝に、ファルの放った矢が突き刺さった。


 サハギンはバランスを崩しながらも、クリスの盾に突撃をしたり、回り込んで爪で引っ掻こうとしたりしている。


 俺がそんなサハギンの斜め後ろから両手剣で切り掛かろうとした瞬間、また矢が飛んできてサハギンの頭を捉えた。

 しかし、刺さるには刺さったのだが、鱗が固かったせいか矢は深く刺さらず、大きなダメージは与えられなかった。


 俺はそれを気にせず、サハギンの背中へ向けて両手剣を振り下ろす。

 振り下ろされた両手剣は、サハギンの肩らへんから腰辺りまで大きく切り裂いた。


「グェェエエエ!!」


 背中から大量の血を噴き出させたサハギンは、地面に転がって痛みにのたうち回っている。


「・・・暴れ過ぎて近付けないな。放っといてもどうせ死ぬんだろうけど見てられん・・・ライトニング」


 バチィッ!


 暴れ回っているサハギンに人差し指を向けて稲妻を放つ。

 サハギンが感電して動かなくなったので、俺は近づいて首に両手剣を突き刺した。


「やっぱEランクだとこんなもんだよな」


「そうだね。正直僕でも物足りないと感じてるよ」


 クリスですらそう感じてるのか・・・

 早いとこランク上げないとダメだな。そのうちDランクモンスターですら物足りなくなりそうだ。


「俺の矢があまり効かなかったのはショックだったけどな・・・」


「あー、それは相性の問題だからあまり気にしなくていいだろ」


「相性ねぇ・・・リンクとビッグトードみたいに?」


「ブフッッ!!」


「おいっ!!」


 俺はクリスとファルの2人に更なる試練を与える事を心に誓った。




 その後、俺達はサハギンの解体を済ませると、日暮れ前まで川沿いで狩りを続けた。


 狩りを終えて街へ戻ると、ギルドで依頼完了手続きと素材売却を済ませて、近所の屋台で晩飯買い込んで家へと帰った。

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