第25話 『経験値の器』
翌朝。
俺は目を覚ますと、実家にいた時のように日課のランニング&素振りをこなそうと、外へ出て走り始めた。
この辺も早朝だと結構静かなんだな。
昨日の夜は賑やかな音が家まで届いて、ちょっと寝づらかった・・・ まぁそれは慣れるしかないな。
昨日はあれから街へ戻ってきて、ギルドでの素材売却を済ませて家に帰ると、俺は自室で過去調べた時に書いておいたスキルのメモと睨めっこし続けた。
そのおかげで、『取得するスキル』の選定が出来た。
俺が昨日思いついたのは、普段の狩りや訓練で無駄にしてしまっている経験値の、受け皿となるスキルを取得しようという事だった。
ただし、現在取得条件が判明しているスキルに限る。
例えば、兄ニコールが持っている『身体強化』はシンプルに肉体が強くなるというスキルなんだが、その『身体強化』のスキルレベルを上げる方法は、体を動かしたりトレーニングをするというシンプルなもの。
という事は、『身体強化』のスキルレベルは狩りや訓練をしていれば、勝手に上がっていくという事だ。
これはとんでもなく当たり前な事なのだが、俺は昨日までこの事の大切さに気付けていなかった。
つまり、俺は今まで稽古をしたり、魔物を狩ったりしてスキルレベルを上げてきたが、魔法を使ってない状況だと『剣術』『短剣術』の分の経験値しか稼いでいなかったのだ。
今は『体術』にも経験値が入っていると思うが。
俺がもし『身体強化』のスキルを手に入れたら、今までと同じ行動をしていても成長するスキルが1つ増えるという事だ。
これは逆に言えば、今まで獲れるはずだった経験値を無駄にしていたという事でもある。
だから俺は、冒険者生活をしていく上で無駄にしてしまっている経験値を極力減らす為、経験値の器となるスキルを新しく取得する事にした。
ちなみに、俺が今のところ取ろうと思っているスキルは『大剣術』『回避』『軽業』『集中』の4つだ。
『大剣術』はおそらくダントさんが持っているスキルだ。
俺の場合は両手剣を使うので、もしかしたら『大剣術』にも経験値が入る可能性がある。短剣を使っているのに『剣術』にも経験値が入っていたパターンだ。
さらに、スキルレベルが上がって本格的な大剣も使えるようになると、将来的に色々と選択肢が増えるというのもいい。
『回避』はシンプルに攻撃を回避する事が上手くなるスキルだ。
今は模擬戦や魔物狩りで攻撃を躱す事が出来ているが、今後はどんな敵を相手にするのかわからないので、あって損はないスキルだと思う。
スキルレベルは模擬戦と魔物狩りで勝手に上がってくれる訳だし。
『軽業』は身軽に動けるようになるスキルだ。
これもあって損はないスキルだが、俺は特に前衛で戦う事が多いので必要だと思う。
今までと同じ行動では、他のスキルに比べてレベルが上がりづらいかもしれないが、意識して動くようにすればそれは解決するだろう。
『集中』は集中力が増すというスキルだ。
これもあって損はない系のスキルだろう。訓練と魔物狩りだけじゃなくて、本を読んだり調べ物をしたりする時にも効果を出してくれそうだ。
しかも今言った行動で勝手にスキルレベルが上がってくれる。
取得方法に関しては、『大剣術』は大剣型の木剣で素振りや模擬戦を地道にやっていくしかない。
流石に狩りで大剣を使うのは、現状では危ない気がする。
『回避』と『軽業』の前提条件は太ってない事と、ある程度の運動能力があればいい事。
俺は両方とも全然大丈夫なので、あとは特定の行動を取ればスキルを取得出来る。
『回避』は素手の状態で合計1時間ぐらい攻撃を避け続ける事、『軽業』はバク宙と前宙を出来る様になればいいだけだ。 正直この2つは余裕である。
『集中』はちょっと特殊で、極限の集中状態を経験しないといけないらしい。
前世の知識で言うところの『ゾーン』の状態だと思われる。スポーツ選手などが競技中になる極度の集中状態の事を『ゾーン』と呼ぶらしい。
俺は今まで『ゾーン』を経験した事が無いので、正直これは取得出来るかどうかわからない。
俺が昨日思いついた事の復習をしながら、街を一周走り終えて家の前まで戻ってくると、ファルが素振り用の剣を持って家の前に立っていた。
「あれ?おはようファル。どうしたんだ?」
「・・・・リンクはいつもこんな朝早くから体を動かしているのか?」
「えっ?あぁ、言ってなかったっけ? 俺はだいたいいつもこの時間に走ったり素振りしたりしてるぞ?」
「・・・・・俺もやる」
「・・・えっ?いや、それは別に構わないけど・・・ 人それぞれ自分のペースがあるから、ファルはファルのペースでやるようにしろよ?」
「それはわかってる」
「なら勝手にやってくれればいいよ。とりあえず剣を持ってるって事は、ファルも素振りするつもりなんだろ?」
「あぁ」
「俺も素振りはこれからだから一緒にしようぜ」
その後、ファルとの素振りを終えて庭で休憩していると、エマが俺達の朝食を作るため家にやって来た。
お互いおはようの挨拶を済ませると、3人で家に入る事にした。
玄関扉を開けて家に入ると、そのタイミングで眠そうな顔をしたクリスが2階から降りてくる。
「随分と眠そうだなクリス。昨日は夜更かしでもしてたのか?」
「まぁね・・・。リンクから渡されたメモを見ながら、夜中まで欲しいスキルを考えちゃったよ・・・・・」
「あーなるほど。そりゃ夜更かししても仕方ないな」
「自分の成長の為だからね。必死に考えたよ・・・」
昨日の夕食の後、俺は取得方法が判明しているスキルについて書かれたメモを、ファルとクリスの2人に渡した。
そして、その中から経験値の器となるスキルを自分で選定してくれと言っておいたのだ。
「ファルも選び終わったのか?」
「あぁ。でも俺は選ぶのに全然時間が掛からなかったからよく寝れたぞ」
「おいおい、ちゃんと考えたか!?」
「・・・・・ちゃんとかどうかはわからないけど、自分で納得出来るのを選んだつもりだ」
「まぁ・・・それならいいんだけどな。とりあえず、選んだスキルの取得については各自で頑張ってくれ」
「わかってるよ。取得方法はメモに書いてあったから大丈夫だと思うし」
クリスの言葉にファルも頷いている。
わからない事があれば聞いてくるだろうし大丈夫か。
「はいみんなー!朝ご飯出来たよー」
おっ、話してる内にエマが朝食を作り終えたようだ。
「よし、今日は初めての狩場に挑む事になるから、しっかり朝飯食べてエネルギー満タンでいこうか」
「「「「いただきまーす」」」」
俺達は朝食を済ませた後、家を出てギルドに依頼の確認をしに来ている。
「・・・これだ。ビッグトードの肉の納品依頼と、サハギンの討伐依頼。この2つが俺達でも受けられる南の川周辺でのEランク依頼だな」
「ビッグトードの肉は1匹分で3000ブラン、サハギンの討伐も1匹3000ブランか・・・ やっぱりそんなに儲けは出なさそうだね」
「そうだな・・・まぁそれは仕方ない。 依頼はギルドへの貢献度稼ぎだと思ってやるしかないな」
「だね。依頼で稼ぐ為には早くランク上げないと」
「そうそう、そういう事。その為にはまず今日の依頼をこなさないとな。って事で受付に行こうか」
早いとこEランクを抜け出さないとなぁ・・・
依頼だけじゃ一向に金が貯まらん。
その後、受付で依頼受注の手続きを済ませるた俺達は、ギルドを出て南の川へと歩き出した。
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